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事務室には悟史と高橋の二人だけだった。高橋はマイペースに弁当をつつきながら悟史を見る。


「さては彼女ができたなー?」

「違いますよ!弁当って言うと何でみんな彼女を疑うんですか」

「そりゃ、恋人の存在は食生活に如実に現れるからよ」


高橋はふふ、と笑った。
高橋春海、26歳。先輩社員だ。この印刷会社で、事務員以外の唯一の女性である。

「お茶飲みますか?」

「大丈夫よー。気遣わないで」

「すみません」


悟史はコンビニで買ってきた弁当を開く。それを少しつついてから、高橋の方をチラリと見る。


「あの…高橋さん」

「んー?」

「少しお話いいですか」

「どうしたの、改まって」

「いや…」


言葉を濁すと、高橋は席を立って悟史の隣のデスクに移動してきた。


「あんまり離れてるとね、大声で話さなきゃなんないでしょ」

「あ、すみません」

「いいわよ。で?何か悩み事?」


高橋は促すように掌をこちらに向ける。悟史は頷いた。


「はい。悩み事って言えば…。あの、すごい失礼な質問だと思うんですが」

「なんでしょう」

「高橋さんが…その、レズビアンだという噂は…」

「ブフッ」


高橋が咽せた。
悟史は慌ててお茶を差し出す。高橋は咽せながら手でそれを断った。


「…その噂はどこで?いや、当てるわ。加藤。加藤が言ったわね?」

「そうです…って言うか、本当に失礼ですみません」

「いいわ、もう。加藤の野郎。まぁ、社員だったらみんな知ってるから、そのうち藤井君と金井君にも話すつもりだったけど」


口元を拭きながら高橋が言う。


「その噂は本当よ。私、男には全く興味がないの」


堂々としたものだった。




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