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「12時半だから、みんな昼休憩にしていいからね」
課長の声がフロアに響く。
それぞれが各々の声を漏らし、伸びをしたり欠伸をしながら動き出した。
「よっ、藤井。昼飯行こうぜ」
悟史に声をかけてきたのは同期の金井だ。同じように新卒採用者として入社してきた彼は、よく悟史と親しくしている。
悟史は片手で謝るジェスチャーをすると、いつもは乗る誘いを断った。金井が不思議そうな顔をする。
「どした?ダイエット?」
「違う違う。俺、今日は弁当なんだ」
「何!?彼女か、お前オンナが出来たな!けしからん!」
「コンビニ弁当だからー」
作業室を出て廊下を歩いていると、先輩の社員が「お、ついに藤井君に彼女ができたか」「金井君は置いてかれたねー」と笑いながら肩を叩く。
「何でわざわざコンビニ弁当…あっ。お前!」
金井が肩を抱いて声を潜めた。
「まさか、高橋さん狙ってんの?」
「ないない」
「マジ?だって高橋さんっていつも社内で弁当なんじゃん?」
「らしいけどね。てか、だって高橋さんって…」
「レズ。男に興味が一切ない。って先輩言ってたよな?」
「でしょ」
事務室の扉を開ける。
「おかえりー」
室内には噂の高橋という女性社員が居た。
既に弁当を開いている。手作りらしき弁当だ。
「……ま、わかるよ。レズでも高橋さん、美人だもんな」
「だから違うって。もう、早く行かないと時間なくなるぞ」
「おっと」
金井はロッカーから財布を出すと、ぐっと親指を立てて事務室を出て行った。
悟史は苦笑いしてデスクに座る。
「あれ?藤井君は今日はお弁当なんだ?珍しいね」
高橋が驚いたように声をかけてきた。
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