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しばらくは何がなんだかわからなかった。
じきに頬に波紋が広がるように、じわじわと熱と痛みが広がり、熊谷に殴られたのだと頭が理解した。
はじめてだった。
熊谷は茉穂に暴力を振るうことはいくらかあったが、今まで一度も、直に手を上げたことがなかったのだ。
そうしてようやく気付く。
自分はもう茉穂の代わりになったのだと。
熊谷にとって直は、これまでの借金を抱えた女の子供ではない。
ターゲットだ。
「お前よぉ…話、聞いてたか?俺は気が長くねぇって言ったよな?お望みなら無理やり犯してやってもいいんだけどよ。
素直にしてりゃ、優しくしてやろうってこっちは気ィ遣ってやってんだよ。わかるか?あ?」
熊谷が直の顎を爪先で持ち上げる。
悔しかった。
自分を置いて逃げた茉穂を恨んだし、熊谷という存在も憎んだ。
そして、抵抗する力を持たない自分自身も。
痛みと悔しさと、それを受け入れることしかできない情けなさで、ぼろぼろと涙が零れた。
あとはもう、無我夢中で熊谷の足にむしゃぶりつくしかなかった。
「…わかりゃいいんだよ。俺も大事な商売道具は傷付けたくねぇからな、直」
熊谷は直の心が折れたのを楽しむように、また満足げな笑みを浮かべた。
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