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名前を口にしてから、やっぱり、と確信を持った。
彼は中学の時に同じクラスに居た、南沢 直(なお)だ。
「南沢?お前、南沢じゃないか?」
引き返してきた悟史に、彼は丸めていた体を起こした。
肘をついて上半身だけでこちらを見る。
悟史は思わず足踏みした。
彼の顔は思い出と、まったく違っていた。
瞼が腫れて潰れかけた左目と、陶器のようにつるりとしていたはずの肌は両頬が腫れて膨れ、目の下には鬱血した跡がある。
いや、――それでも彼は美しいままだった。
髪は昔より長くなり、肩に垂れる程度あるが、入念にトリートメントをしているかのように艶やかだ。
腫れてない方の右目はくっきりとした二重と長い睫毛が健在だし、そこはまるで中学時代と変わらない。
「やっぱりそうだ…」
悟史の呟きに彼の口が僅かに開く。
唇の端も切れて、乾いた血がこびり付いていた。
そのまま唇が「あ」の形のまま固まる。
え、と思った悟史の目の前、かつての美少年はぐるりと目を回すと、そのままガクリと頽れた。
「はっ?!」
ビクッと後退りしてしばらく、思考が停止する。
数秒してから慌てて倒れた彼の傍らに膝を付き、ゆさゆさと肩を揺する。
「南沢!南沢、どうした?!」
だが今度こそ、彼は一切身動きをしなかった。
あまりに突然の気絶に動転して、とっさに倒れた体を抱え上げる。紙を持ったような軽さに更に動転した。
マンションに駆け込み自室に猛ダッシュする。
軽さも、怪我も、何もかもが怖かった。
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