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鍵をしたはずの部屋に熊谷が居ることは珍しくなかったし、もう慣れている。
だがこの男が来るのは、何かしらの理由がある時だけだった。


「…あの人、何かしたの?」


直が差したあの人とは茉穂のこと。茉穂はキャバクラで働いている。
そういう所のバックにヤクザが付いているのは珍しいことじゃなかった。


「茉穂はどこ行った」

「知らない。いつもなら店に行ってる時間だけど、居ないの?」

「逃げたか?捨てられたな、直」


熊谷はくく、と笑って、脂気のない髪をぼりぼりと掻く。


「脱げ」


唐突に命じられて、直は思わず間の抜けた顔になった。


「は?」

「早く脱げよ。じゃなきゃその、なけなしの金で買った制服、破くぞ」

「ちょっと、何で」


掴まれた腕を振り払い、半ば叫びそうになりながら聞く。
熊谷は真顔になって直の顎を指で挟み、そのまま上に向けさせた。


「そりゃお前、母親が居なきゃ、息子に責任とらせるだろ。残りはお前が返すんだよ、直。
お前いくつになったっけ?ま、こんなチビを表には出せねぇからな、体使うしかねぇだろ」


借金の話だった。茉穂は闇金に手を着け、その返済のためにキャバクラで働いていた。
それでも直は食い下がる。


「待ってよ、あの人なにしたの?おれ、何の責任とらされんの」

「店の金ハネたからだよ」


さっと脂汗が吹き出る。
絶望的だと思った。




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