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ドアノブに手をかけてから、ぎょっとした。
鍵が開いている。
この時間、母親である茉穂(まほ)は、もう仕事に出ているはずだった。

音をたてないようドアを少しだけ開けると、中からテレビの音声が聞こえる。
直(なお)はできるだけ渋面を作って中に入った。

台所や風呂場のある四畳半と、その奥を仕切る引き戸。
その磨り硝子に、大柄な影が映っている。


「熊谷さん」


呼びながら戸を開けると、こちらに背を向けた男が横這いになり、ニュースを流すテレビの画面を眺めていた。


「熊谷さん、人の家で何やってるの」


直はできる限り厳しい声を出したつもりだった。

だが男は大儀そうに首だけで振り返り、それから直の頭の先から爪先に舐めるような視線を走らせ、フンと鼻を鳴らす。


「お前、中学に上がっても相変わらずチビのままだなぁ、おい」

「余計なお世話なんだけど」


鞄を床に落とす。ドサッと重い音がした。

熊谷(くまがい)という男はヤクザだった。
名前の通り熊のように大柄な男で、身長は180を優に越えているだろう。
ガタイがよく、筋肉質だ。それに加えて鋭い目つき。

道ですれ違えば十中八九の人間が目を逸らすような風貌だった。
堅気でないことを体で表している。




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あきゅろす。
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