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「なんでか聞いてもいい?」

「何が?」

「いや、俺って自分で言うのも何だけど、目立たないしつまんないし、すっげぇ普通だったと思うんだけど…」

「ああ、何で覚えてたかってことね」


南沢は頷く。


「藤井、覚えてるかな?あんた卒業式の時に一度だけ話しかけてきたんだ。
めちゃくちゃ緊張してガチガチでさ、もしかしたらこいつ、告白してくるんかなぁとか思っちゃって。

そしたら「今からみんなでカラオケ行くんだけど、南沢も来ない?」って。断っちゃったけど。それだけ」


それだけ、と笑う南沢は、少し照れくさそうだった。

悟史も覚えている。
卒業式の日の、最後の教室。
女子が泣いていた。
騒がしかった。

南沢は相変わらず一人だった。
細い指は卒業証書の筒を軽く掴んでいて、それだけが教室の中で唯一、他のみんなと同じ「卒業生らしさ」。

初めて声をかけ、初めてもらった返事は「遠慮しとく」という短いものだった。

それだけ。

それだけで終わったはずの二人が今、こうして向き合っている。
何だか不思議な気分だった。


「とりあえず中、入って座って」


悟史は南沢を部屋に再び通し、自分は何か出す物を探すために台所に向かった。




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