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まぁ、こういうことは今までにもいくらかあったし。
はじめてではないから戸惑うこともなかった。
ここは比較的、駅近のマンションなのだ。
酔っ払いがエントランスに転がってる光景は珍しくない。
「おい」
普段なら放置するそれに、その日に限って声をかけた理由を上げるならば、それがいつものハゲとかメタボのオヤジではなかったからだった。
「こら、こんなとこで寝てると襲われちゃうよ」
肩を揺らす。想像したよりもずっと薄い肩だった。
その――彼だか彼女だかは、猫が丸まるようにして腹を抱え、マンションの壁に向かって体を縮こめている。
白いカッターシャツの背中が土で汚れていた。どこを転がって来たのだろう。
「おい…」
「うるっせぇな」
再度、肩を掴んだその手を乱暴に払われる。
声は男のものだった。
骨張った手の甲がシッシと手を振る。
「ほっとけよ」
歯に衣を着せぬその物言いにムッとすると、悟史(さとし)は「あっそ」と立ち上がった。
こっちは心配して警告してやってるというのに、あんまりな扱いだ。
「明日の朝、財布がなくなってても知らないからな」
今時の若者は、とジジ臭いことをぼやきながら自動ドアをくぐる。
だがふと足を止めた。
突然、脳裏に中学の頃の同級生の顔が浮かんできたのだ。
テレビの中の女優のように透明感のある真っ白な肌と、それに相対する濡れたような漆黒の髪。
長い睫毛に縁取られた大きな目。
すっと鼻筋の通った顔に、薄めの唇は艶のある桜色。
なぜそんな風に覚えていたかと言うと、その彼はクラスの、いや学校中の女子と並べても全く引けを取らないくらい、見目麗しい美少年だったのだ。
そう、彼は
「――南沢、直?」
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