初恋物語(完結) 〜貴方と過ごした季節〜
花音の部屋
亮太が花音を抱いた後、しばらくベッドで横になっていると、家に帰ると言った。
亮太が花音の様子がおかしいと感じる事もなく、9時には帰宅するのが普段のリズムなのである。
「じゃあな!今度は3日後の日曜日に、映画に行くんだったよな?」
「うん!映画だよ!前から楽しみにしてたんだから!」
こんな会話を玄関で交わして、二人は別れた。
すると……
ピンポーン♪
玄関のチャイムが鳴った。
「んっ?亮ちゃんが忘れ物したのかな?」
花音が不思議に思いながら扉を開けると、そこには…
龍宏がいた。
「よっ!久しぶり!」
「たっちゃん!!久しぶり!」
野球で負けて落ち込んでいると思っていた龍宏は、意外なくらい元気そうな笑顔で挨拶を交わした。
「入っていい?」
「う…うん…別にいいけど…」
花音は龍宏を家に入れるのに戸惑いを隠せずに、辺りを見回して視線が定まらないでいた。
さっきまで亮太に抱かれていた部屋に、龍宏が入るのだから当然である。
花音の部屋は4畳半の狭い部屋に、ベッドと学習机が置いてあり、くつろいで座る場所などない。
そこで、龍宏がベッドに指を差して言った。
「座っていい?」
「う…うん…いいよ
ベッドの下に座った花音が、ベッドに座る龍宏を見上げると、少し赤くなり視線を落とす。
先ほどまで亮太に抱かれていたベッドに、心が揺れている相手である龍宏が座っているのだから、何か恥ずかしい気がしていた。
そんな気持ちを龍宏に悟られないように、話題を作った花音。
「急にどうしたの?」
「偶然、花音の家の近くを通ったから来てみたんだ…」
「意外に元気そうなんだね?」
「アハハハ!もしかして…野球で負けて落ち込んでいると思ってた?」
「……」
花音は何も言えず無言になった
「嘘っ!嘘だよっ!」
龍宏は思わず苦笑いをしたが内心…動揺を隠せずにいた。
何故なら龍宏は、花音に優しく慰めて貰いたかったからである。
そんな龍宏の姿を見ていた花音は、強がっている時の龍宏のくせを見抜いていた。
(たっちゃんは、強がっている時…頭を掻く癖が直ってないんだな…?目だって真っ赤だし…)
そこで、花音は龍宏の心の隙間を少しでも埋めてあげたいと思って話し始めた。
「悔しくないわけないじゃん…たっちゃんの夢だった夏の大会の優勝をあと一歩で逃したんだから…」
しかし素直になれない龍宏は強がって見せた。
「違うって言ってんだろ?負けたって、プロ野球からスカウトされる事も決まってるしな?」
「辛い時は…辛いって言ってもいいんだよ…?幼馴染みの友達なんだから…ねっ?」
すると、龍宏がベッドから降りて、真剣な顔で花音の顔を覗き込み、花音の顎を指先で支えて持ち上げる。
「えっ…たっちゃん…」
キスをされるという雰囲気に、花音は体が硬直した。
「そんなに言うなら…辛い気持ちを忘れさせてくれよ…?」
「どうやって…?」
「ヤらせてくれよ…?」
「えっ…」
部屋の空気が凍りつく中…
花音は俯いたまま、涙を浮かべて小さくコクッと頷いた。
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