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戦う女
1 [side斎藤]


「組長」





呼ばれて、俺は振り返る。
宮尾が通りの右側を指差して、





「私はあっち側を見回ってきます」





と言った。





「あぁ、頼む。
何かあったら呼べ」




「はい」





この辺りは最近ガラの悪い浪士がうろついているため、入念に見回るようにと副長から御達示が出ていた。

宮尾は俺に一礼返すと、雪村と二人で店のほうへ駆けていった。





「こんにちは。
新選組の者です。
突然すみませんが、店を改めてさせていただきます」





と宮尾が丁寧に断れば、亭主は幾分安心した面持ちで「どうぞ」と迎えた。


俺はそれを見送りつつ、反対側の店へと歩を進める。




最近、宮尾にも隊務中は"組長"と呼ばれるようになった。
俺だけではなく他の幹部の者達もだ。

先日はそのことで総司に笑われてずいぶん気を悪くしていたようだが…




宮尾が三番組に配属されたのは、俺が宮尾を監視するよう副長に命令されたからだった。

元々、羅刹の存在を知っていることや間者である可能性を疑ってのことだったが、
宮尾は女子であるから普通の隊士と同じ扱いという訳にはいかない部分があり、様子を見る必要があった。


だがこちらのそんな心配をよそに、宮尾は順調に隊士として馴染んできていた。









――――「やめなさいよ!!みっともない!!」





不意に女のそんな声が聞こえてきた。
見れば、少し先で不逞浪士と思しき三人組と何やら揉めている。





「あなた達!!」





そこに割り込んできた人物に、俺は目を見張った。





「なぜか弱い女子供に暴力を振るおうとするのですか!?
町人を守ってこその侍でしょう!!」





雪村である。
思わずため息が洩れた。





「何だと!?」





刀を抜いた浪士達。

横にいた隊士がそれに気付いて青ざめた。
それでも俺が動かなかったのは…





ドカッ!! バキッ!!




「「「ぐあっ!!?」」」





…宮尾が助けることが目に見えていたからだ。





「野良犬根性に免じて、峰打ちにしといてやるよ」





骨の二、三本は折れたであろう峰打ちを放ち、宮尾はそう吐き捨てた。










「千鶴!危ないでしょ!」




「ご、ごめんね和葉…
ついとっさに…」





浪士を縛り上げながら雪村を睨みつける宮尾。





「そうよ。あんなの、私一人でも大丈夫だったのに」




先程の女子にまでそう言われ、雪村はますます小さくなった。





「でも、あなた勇気があるのね!浪士相手に立ち向かうなんて。

ありがとう!」




「そんな…助けたのは和葉で…」




「千鶴でしょ」





宮尾は袴についた砂埃を払って立ち上がる。





「千鶴ちゃんっていうのね?」




「は、はい。雪村千鶴といいます」




「よろしく!

あなたは…新選組の方ですよね?…和葉さんというのかしら?」




「宮尾和葉です。よろしく」





雪村に続いて、宮尾も自分の名を名乗った。





「これも何かの縁だと思うし、仲良くしましょう!女の子同士!」





そう言って雪村の手を握る。
女の子同士、の中に、宮尾は含まれない。



言われた雪村は大層驚くが、




「ま、分かるよね」





と宮尾は笑った。





「私のことは、千って呼んでね」





そう言って、「それじゃまたね」と手を振って去っていった。





「元気な子だなー…」





宮尾がそう言って見送る。





「あの…和葉、斎藤さん。
私の男装ってそんなにわかりやすいですか?」





そう聞かれ、俺と宮尾はちらっと顔を合わせる。





「まぁ…ねぇ」




「…あぁ」





"仕方ないんじゃない?"
という意味を言外に含んだ宮尾の発言に、俺も頷く。
仕方ないだろう。
れっきとした女子なのだから。





「そ…それはどういう意味ですか!?」




「深い意味はない。気にするな」




「そうそう。千鶴はそのままでいいんだよ」





戸惑う雪村の背中を宮尾が押し、俺達は巡察を再開した。



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あきゅろす。
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