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戦う女
8 [side千鶴]


『鬼を知らぬ?本気でそんなことを言っているのか?
我が同胞ともあろう者が…雪村千鶴』





浮かんでくるのは、あの人が言った言葉。





(どういうこと…?
鬼だなんて…そんな…)





同胞、ということは、私も鬼だということだろうか。


怪我の治りが早いのは事実だ。
昔からそうだった。
周りの人とは違うことは自覚していた。
父様に、このことは他人に言うなと教えられて育ったんだ。





(父様は…何か知ってるのかな…)





それに、もうひとつ気になることがある。

例の薬のことだ。

あの薬を飲んだ人達は、私と同じように傷の治りが異常に早かった。

その薬の研究に父様が関わっていたことも、偶然とは考えにくい。


……と、そこまで考えて、近くで人の咳込む声が聞こえた。





(沖田さん……?)




私は近くまで行ってみる。

すると…沖田さんがいた場所に、数滴の血が落ちていた。


















皆さんが警護から戻ってきて、私はまっ先に和葉のところに行った。
あの時は言いそびれちゃったけど、和葉が来てくれてとても助かったからお礼を言わないと。





「和葉、おかえり!」




「!千鶴…うん、ただいま」




疲れているであろう和葉も、笑顔で返事をしてくれた。

私達は部屋に戻りながら話す。





「あの…和葉、ありがとう。
あの時、私を助けてくれて」




「ううん、結局何もできなかったし…」





(……)





和葉はきっと悔しいんだろう。
あの人達に歯が立たなかったことが。





「…ごめんね、私のせいで…」




「え?
…なんで千鶴のせいなの?」




「……あのね、和葉…」





言わなくちゃ。私が知っていること、思っていること。
ちゃんと伝えなくちゃ。





「…和葉、話したいことがあるの。
今夜、いいかな?」





私の言うことに目を見開いていた和葉が、真剣な顔つきで頷き返した。

















――――「ごめんね、疲れてるのに…」




「大丈夫だよ。
いつもの稽古に比べれば全然」





そう言って腰を下ろす和葉に苦笑する。

西本願寺に屯所が移る少し前から、私と和葉は相部屋になった。
別段部屋が足りないわけでもないんだけど、私も和葉も、幹部でもないのに一部屋宛がわれるのは申し訳ないよねと互いに話し合い、そうしてもらった。

だから一日稽古をやってきた時の、和葉の疲れきった様子はよく知っている。





「…こんなこと言ってちゃ駄目だね。
全然、まだ稽古が足りないって分かった。
私は…まだまだ弱い」





そう言った和葉に、私は罪悪感を覚えた。





「…和葉は強いよ。
本当に…強い」





私の言葉から何かを感じ取った和葉が、私の手を握る。





「話してよ、千鶴。
今千鶴が思ってること、全部」





そう言ってくれた和葉に、私は全てを打ち明けた。

"鬼"と名乗る人達の言ったことと、私の体の特徴。
父様と薬についての心当たり。





「私は…これは全部一つに繋がってるんじゃないかなって思うの。
偶然というには…不自然だもの…」




「…た、しかに…」





何の確証もない。ただの憶測だけど、
それでも、不安で仕方ない。







「…あのさ、失礼なこと聞いちゃうけど…
千鶴は血が欲しくなったりとか、姿が変わったこととかってなかった?」





和葉はそう遠慮がちに聞いてきた。





「ううん。一度もない。
私にはあんなすごい力もないし、あるのは治癒能力だけで…
私の知る限りでは父様もそうだと思う」




「…あの男三人に見覚えは?昔会ったことがあるとか」




「ない、と思う。
会ったのは…池田屋と禁門の変の時だけで…」




「え!?」





驚く和葉を見て、和葉は知らないんだと気付き、私は慌てて説明する。





「そんな…あの男、沖田さんを倒したの!?」




「うん…そういえば、あの人は"風間"さんって名前だった気がする。
あとの二人は…斎藤さんと原田さんが知ってるのかな…」




「……」





和葉は腕を組んで考えこむ。





「…とりあえず、父様を見つけなきゃって思うの」




「そうだね。できるだけ早く…真相を掴まないと」





今、この場で答えは出せない。
まだ手がかりが少ない。

それにしても…





「…ねぇ、和葉は変だと思わないの?
こんな体質の私を」




「え…
…変だなんて思わないけど…」





答え方に困ってる和葉に、私はさらに問う。





「不気味だとか…厄介者だとか…思わない?」





こんなこと直接聞くなんて馬鹿だな、と思った。

こんな言い方をすれば、和葉は絶対「思わないよ」って言うに決まってるのに。

私は慌てて目を逸らし、口を開く。





「ご…ごめん何でもない!
忘れ「千鶴。
…私は千鶴を一人にはしないよ」





私の言葉を遮って、和葉の真剣な声が聞こえた。





「寂しくなんかないよ、って言ったでしょ?」





顔を上げると、和葉は笑ってた。





「…うん……」





心が溶かされていく。
安心した。とても。

和葉は私のことを優しいと言ったけど、私は和葉のほうこそ優しいと思う。

こういうところが和葉の強さなんだと思う。













「千鶴、このこと幹部の人達に話しといたほうがいいんじゃないかな?」




「…うん、やっぱりそうだよね…
…でも、正直言って怖いの。
薬を飲んだあの人達と私の体の特徴が同じってこととか…言う勇気がまだ持てなくて…」





守ってもらっておいて卑怯だけど、これが私の本音だった。

和葉は頷きながら口を開く。





「…そっか。
…うん、分かった。
私も言わないから、千鶴が話したくなった時に話せばいいよ。

皆さんはきっと…変わらないと思う」





最後の言葉に驚きつつ、私も「うん」と頷き返した。

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あきゅろす。
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