戦う女
8 [side和葉]
「あれ?
……千鶴…?」
巡察から戻ると、千鶴の部屋の障子が空いていた。
中を覗いても、千鶴はいない。
(どこ行ったんだ…?)
私はとりあえず自分の部屋に戻り、腰から大小を抜き、鉢金を外して羽織を脱ぐ。
すると突然、庭の方から足音が聞こえた。
「宮尾、いるか?」
「!はい」
障子を開けると、そこにいたのは斎藤さんだった。
「総長を見なかったか?」
「え…山南さんですか?
見てませんが…」
普段冷静沈着な斎藤さんが、かなり焦っている。
私は次第にその意味を感じ取った。
「……まさか山南さん…」
「…まだ分からぬが…あれを飲んでしまう可能性は捨てきれぬだろう」
一度そう考えると、頭はどんどん悪い方向に働く。
最悪、山南さんをこの手で始末しなくてはならないかもしれない。
「…とりあえず、総長を捜す。
薬のことを知っているのは数人の幹部とあんただけだ。
ほかの隊士にばれないようにしてくれ」
「わかりました」
私は再び腰に大小を差し、部屋を飛び出した。
――――「……か!!だれか来て!!」
「!?」
突然近くからそんな叫び声が聞こえ、私は走りだす。
(今の声…千鶴!!
まさか…まさか山南さんが…)
最悪の光景が頭に浮かび上がる。
私は声の聞こえた辺りの部屋の襖を、片っ端から開け放った。
そして…
「…!!」
「!!…和葉…助けて!!」
目の前の山南さんの髪は白く染まり、そこに千鶴が小太刀を突き付けている。
一瞬状況が飲み込めなかったが、どうも山南さんが自分で自分を刺そうとしているのを、千鶴が止めているようだった。
「はっ!!」
「…っ!!」
私は小太刀を抜いて峰打ちで山南さんを突き放す。
千鶴の小太刀が畳に落ちた。
「……」
山南さんは再び立ち上がり、赤い目を見開いてこちらに迫ってくる。
「千鶴、近くに幹部の方達がいるはずだから呼んできて!」
「うん!」
私は千鶴に道を開けつつ間合いをとる。
千鶴が出ていくのと同時に、山南さんが床を蹴った。
「ウオォォ!!」
「っ…すみません!!」
飛び掛かってきた山南さんとすれ違いざまに足の腱を斬る。
私はそのまま刀を手放し、俯せに倒れた山南さんを上から押さえつけた。
「っ…山南さんっ!」
尋常じゃない力だ。
後ろから全力で押さえこんでもこちらが吹っ飛ばされそうな程だ。
やがて私は山南さんにガッと腕を掴まれてしまった。
「っ!しまっ…」
「宮尾!!」
間一髪のところで来てくれた土方さんが、山南さんの腕を振りほどいてくれた。
続いて入ってきた沖田さんと斎藤さんがそのまま山南さんを拘束する。
「ウッ…ウガアァァァ!!!」
山南さんはひとしきり暴れた後、うめき声をあげてその場に倒れこんでしまった。
それを見た千鶴が、緊張の糸が切れたのかこちらにフラッと倒れてきた。
私は慌ててそれを支える。
土方さんは幹部の方々に次々と指示を出し、やがてこちらを向いて、
「お前は千鶴を部屋に運べ」
と一言言った。
千鶴を見る目があまりにも冷たくて、私は思わず口を開く。
「土方さん、千鶴をどうするつもりなんですか?
まさか殺すつもりじゃないですよね」
そういうつもりなら、私とて黙って見てるわけにはいかなくなる。
だが土方さんは私を睨みつけて、
「…いいから早く運べ」
と言っただけだった。
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