戦う女
6 [side主人公]
「……」
目が覚めると、私の目に映ったのは天井だった。
確か自分は外にいたはずだが、何がどうなっているのかわからない。
ボーっとする頭を覚醒させるべく、必死に記憶の断片をたどる。
(たしか…清水っていう寺の近くまで行って…そんで…)
そこから先の記憶がない。
悶々と考えていると、突然近くで人の声がした。
「う…ん……」
驚いて起き上がってみると、自分が臥している布団の上に人が俯せになっている。
…よく見ると、その人の横に水の入った桶と手ぬぐい、それに薬も置いてあった。
(看病…してくれてたんだ…)
しかし、このままでは今度はこの人が風邪を引いてしまう。
「…あのー…」
「…ん……あ…れ?私……」
目を擦りながら起き上がったその人を見て、私は少し驚いた。
女の子だったからだ。
格好から男だと思っていたが、声と顔が女の子だ。
しかもけっこうかわいい。
(…まぁ格好に関しては私も人のこといえないか…)
そんなことを考えていると、ボーっとしていたその子は目が覚めたらしくパッと起き上がった。
「そっか!私……すみません寝ちゃって……お加減いかがですか?」
状況を把握するなり思いっきり頭を下げてきた。
「はい。おかげさまで良くなりました。本当にありがとうございました」
そう言って私も頭を下げる。
「いえ!よかったです。二日前運ばれてきたときは本当にどうなることかと…」
(ふ、二日前…?)
そんなに時間が経っていたとは思わなかった。
すると私は昨日一日寝こけてたことになる。
「なんか…ホントにすみません…ご迷惑おかけして…」
私はもう一度頭を下げた。
「えっ、いえいえ!迷惑なんかじゃありませんから、気にしないでください」
その人はあわててそう言って、笑いかけてくれた。
つられて私も自然に笑顔になる。
(なんか…いい人なんだな…)
私みたいな見ず知らずの他人に、こんなふうに接してくれる人は少ない。
二人でそんな感じで話していると、
「あれ、起きたんだ」
と、突然男の人の声がした。
入るよ、と言って入ってきたその人と目が合う。
「沖田さん!」
隣の女の子が声をあげ、その人は「おはよう、千鶴ちゃん」と言った。
そして再び私に視線を戻す。
人懐っこそうな笑顔に、冷たい目―
まぁ、初対面ならこんなもんだろう。
逆にあの子…千鶴…さん?の反応は異例と言える。
「おはようございます」
「…だいぶ復活したみたいだね。」
「はい、おかげさまで。本当にありがとうございました」
そう言って頭を下げると、「お礼ならこの子にね」と、女の子の…千鶴さん…?の頭をポンッと叩いた。
「あ あの、私雪村千鶴といいます。よろしくお願いします」
「あ、はい。申し遅れました…宮尾…和葉といいます。
こちらこそよろしくお願いします」
未だに慣れない名を名乗り、私は頭を下げた。
「和葉ちゃんか。
……ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今いいかな?」
(今、ちゃん付けしたな…
ってことは女ってばれてるのか)
と頭の隅で思いつつ、その言葉に首を傾げる。
「?…構いませんが…なんでしょうか?」
「うん。場所を移そうか。
みんな待ってるしね」
(…みんな?)
色々と疑問が浮かぶが、それを聞く雰囲気ではない。
千鶴さんも表情を曇らせている。
私にも断る理由はないのでついて行くことにした。
「でもその前に…着替えたほうがよさそうだね」
そう言われて自分の格好を見ると、なるほど服がはだけて、髪もボサボサになっている。
こんな格好で今まで話していたのか、と恥ずかしくなった。
「はい。ではそうさせていただきます」
そう言って私だけ部屋に残り、二人は部屋を出て行った。
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