戦う女
5 [side土方]
道場に木刀のぶつかり合う音が響く。
正直、斎藤との試合は一瞬で終わると思っていた。
俺が『本気でいけ』と言えば、あいつは必ず居合を使う。
それを止められる奴はそういない。
まして、まだガキで…しかも女の宮尾にどうにか出来ると誰が思うだろうか。
「すげぇ!初太刀止めやがったあいつ…」
「こりゃ思ってたより全然強ぇかもな」
第一刀に歓声が上がる。
「なるほど…考えましたね。
脇構えなら正確な間合いは取れない。
斎藤君にとってはやりにくいことこの上ないでしょう。
…やはり彼女は…」
腕をやられてからすっかり意気消沈してた山南さんが、珍しく興奮している。
宮尾はさらに攻める。
さっきと違って、積極的に自分の技を出そうとしている。
後の先をとって勝てる相手ではないとふんだのだろう。
だが斎藤も斎藤で容赦なく技を連発する。
宮尾が居着いた瞬間に突きを繰り出す。
宮尾がそれをいなせば、また突き、さらに突き、次々に畳み掛ける。
「く…っ……」
一瞬の隙もない猛攻に、宮尾は退くしかない。
(勝負あったか……)
と思ったが、まだ宮尾の目の色は変わらない。
まだ諦めていない。
「ふっ!」
「!!」
道場の端まで追い込まれたところで、宮尾は斎藤の最後の突きを受け流して面に跳んだ。
おお!と、周りから声が上がる。
だが、左利きである斎藤にはいとも簡単に防がれる。
宮尾はきっと構えが左の奴とやるのは初めてだろう。
俺達だって、斎藤に会うまではそんな奴見たこともなかった。
初戦にしてはいい動きをするが、やりにくくてしょうがないはずだ。
今度は斎藤が面に打ち込み、宮尾が返して胴を狙うが、先読みされて防がれる。
鍔ぜりになり、離れて、また構える。
宮尾は疲れているが、息は切らさない。
人は息を吸う瞬間は動けない。
だから、剣客はそれを狙うことが多い。
(斬り合いの心得はきちんとわきまえてやがるな……
あんなガキのくせして…)
「長ぇな……」
「あぁ…でも……そろそろ決まるだろ」
新八と原田が言った瞬間、二人共動いた。
「!相打ちか!?」
宮尾は突きを狙う。
斎藤は面を狙う。
どっちが速いか………
――――――ヒュッ!!
「―――――…一本!それまで」
総司が上げたのは、斎藤の面だった。
宮尾の突きは、若干左に逸れていた。
二人は納めて、一礼する。
「……すげぇ試合だったな」
「ああ…
惜しかったなー和葉!
けどさすがは免許皆伝だな。
斎藤相手にあそこまでやるとは…」
皆がそれぞれ話す中、宮尾が斎藤に頭を下げる。
「ありがとうございました。
とても勉強になりました」
斎藤は宮尾に頭を上げさせて言った。
「いや…俺のほうこそ、いい試合をさせてもらった。礼を言う」
斎藤の言葉に、いえ…と言った宮尾の顔は、とても悔しそうだった。
俺達からすればあそこまでやれれば十分だと思うんだが、宮尾はそうでもないらしい。
「…相当悔しそうですね、彼女。
まさか一君に勝てるとでも思ってたのかなぁ?
思い上がりも良いところですよね」
総司の言葉に、近藤さんが口を開く。
「そんなことはない。
良い試合だったし、負けて悔しいと思うのは大事なことだ」
近藤さんの言葉に、俺は宮尾を見る。
原田や平助と今の試合の話で盛り上がり、千鶴が何か話しかけると、苦笑して答える。
「…あれはまだ強くなるな。
ひょっとして、ここにいる誰よりも伸びしろはあるかもしれないぜ」
俺がそう言うと、総司が少し驚いて俺を見た。
「…へぇ…
土方さんがそこまで言うなんて、珍しいですね。
ひょっとして気でもあるんですか?」
いつものムカつく笑顔で言われ、すかさず言い返す。
「んなわけねぇだろ!
ったくてめぇは…いつもくだらねぇことばっか言いやがって…」
「ふぅん…じゃあ千鶴ちゃんか」
「だから!てめぇはいつもいつも…!」
総司は「っはは!」と勢いよく笑う。
俺は近くにあった木刀を引っつかんで逃げる総司を追いかけた。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!