戦う女
3 [side原田]
「よろしくお願いします」
名乗りを上げた林に、和葉はスッと頭を下げる。
「和葉、頑張って!」
千鶴がまた声かけ、和葉も笑って頷く。
千鶴の性格を考えれば心配しそうなもんだが、さっきからそんな様子は見せない。
「千鶴、お前和葉のこと心配じゃねぇのか?」
俺の質問に、千鶴はきょとんとして答える。
「え?
えぇ…試合で死ぬことはありませんし…怪我をしないかはちょっと心配ですけど…」
千鶴は的外れな答え方をした。
「いやそうじゃなくてよ、勝ち負けが、だよ」
そう言うと、千鶴は微笑を浮かべて、
「…心配してないわけじゃないですけど、信じています。
和葉は…本当に、強いですから」
と言った。
その言葉に、自然と笑みがこぼれる。
「…そうか」
―――――――「始め!」
林と和葉の試合が始まった。
(さて…今度はちと手強いぜ。
どうする、和葉)
皆が固唾をのんで見守っている。
今度は、互いに中段だ。
そして、和葉の剣先が小刻みに動き始めた。
―――――――鶺鴒(せきれい)の尾のように。
「「「「「「!!」」」」」」
"鶺鴒の剣"は、北辰一刀流の特徴だ。
「やっぱりそうか。和葉は北辰一刀流の…しかも本家の門下生…」
「はぁ!!」
林が一気に間合いを詰めて打ち込む。
和葉はそれを防ぐが、林は次々に打ち込む。
そして林の攻撃が止んだ瞬間、踏み込んだ。
「やぁ!!」
―――カアァン!!
高い声と共に木刀の音が響いた。
林も負けじと打ち返すが、和葉はそれをいなして二段打ちを出す。
林はそれをギリギリのところで避け、再び互いに構えて攻め合いになった。
「はぁぁ!!」
林が和葉の面めがけて跳ぶ。
和葉は抜き胴を狙う。
それを林も見極め、すかさず手元を下げる。
一瞬も気を抜けない攻防が繰り広げられた。
「す…すげぇ…」
隊士の誰かがそう呟いた。
「ふん!!」
「ぐっ………」
林が鍔ぜりから無理矢理押し、和葉が押し負ける。
和葉は一旦退いて間合いをとり、二人はまた構え直す。
和葉が退いたのを見て勝機ありと思ったのか、林が打ちこんだ、その時…
――和葉が構えを下ろした。
「!!」
林は間合いを取り違えた。
次の瞬間……
――――――ビュッ!!
和葉の木刀が、林の頭スレスレで止まっている。
「一本!それまで」
一拍置いて、おぉー!!という歓声が沸き起こった。
「…い…今和葉は何をしたんですか?」
千鶴があまりの急展開について行けず、聞いてきた。
「……簡単に言うとな、林の技を抜いたんだよ。
一瞬、和葉が構えを解いたように見えただろ?あれで、林は間合いを計りかねた。
その一瞬が命取りになった」
(…しかし…大したもんだな…)
"強い"というより、"上手い"と言ったほうがしっくりくる剣だ。
力や気合いで圧していくんじゃなく、相手の剣を読んで、手数で攻める―――
道場剣術に徹底して打ち込んできたんだろう。
……ただ、いざ斬り合いとなれば役に立つかはわからない。
「ありがとうございました」
和葉は林に頭を下げ、俺達のほうに歩いてきた。
「和葉、お疲れ様!
すごいね、やっぱり」
汗をかいた和葉に手ぬぐいを渡しながら、千鶴がそう言う。
「いや…今のはちょっと焦った。
どうやって取ろうかなって…」
和葉は苦笑してそう答える。
その和葉に、平助が声をかける。
「和葉、お前は…」
和葉は平助の意図を察して頷く。
「…うん…平助君と同じ、北辰一刀流だよ。
ごめんね、今まで何も言わなくて」
またしても苦笑してそう答える和葉に、平助は慌てて首を振る。
「い いや!いいよ。別に気にしてねぇから。
ただその…和葉はどこまで取った?やっぱ免許皆伝か?」
俺もそれは気になっていた。
まぁ同門の平助としちゃあ、余計に気になることだろう。
「あぁ…
…うん、一応」
和葉が曖昧に答える。
「!そうか…やっぱりそうか」
平助がちょっと悔しげに呟いた。
「よし!入隊試験は終わりだ。合否や所属などは追って連絡する。
このあと幹部は残れ。以上、解散!」
土方さんの声に、皆ぞろぞろと道場から出ていく。
それを見届けて、土方さんは和葉に向き直った。
「宮尾」
「はい」
和葉は名前を呼ばれて立ち上がる。
土方さんは一瞬斎藤に目配せしてから、
「もう一試合、今度は斎藤とだ」
と言った。
(!!……マジかよ…)
俺を含めた全員が驚く。
和葉も驚いていたが、やがて斎藤のほうを向いて、
「お願いします」
と頭を下げた。
(……おいおい、大丈夫かよ?)
そりゃいくら何でも…と思ったが、斎藤も和葉も俄然やる気だ。
ふと千鶴を見ると、
さっきとは打って変わって、青い顔をしている。
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