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戦う女
2 [side原田]


(和葉の奴…何考えてやがるんだ?)





自分よりでかい相手に上段をとっても、有利なことは何もない。





「あ…あの構え―…」





隣で千鶴がつぶやいた。





「構えがどうした?」





「あ、いえ…屯所襲撃のとき、浪士達から私を助けてくれたときもあの構えだったなぁって思って…」




「ほぉ…そりゃ珍しいな」





竹刀や木刀で上段を使う奴は多いが、真剣の斬り合いではあまり使われない。

よっぽど自信があるか、それともそういう流派なのか…

そうこう言ってるうちに、佐々木が動いた。





「ふん!!」





――――カアァン!!





木刀がぶつかり、乾いた音が響く。


佐々木の振りはそこそこ速い。
が、和葉もきちんと対応した。


鍔ぜりから離れ、再び和葉は上段に構える。

ツツ――っと、和葉の左足が動いた。





「やぁ!!」





――――カアァン!!



再び乾いた音が響く。




和葉の剣もまあ速いが、驚くほどじゃあなかった。





「おいおい、こんなもんかよ」





三番組の誰かが、そう呟いた。

俺達も期待してた分、ちょっとがっかりだ。





(まぁそうは言っても、あいつは女だからなぁ…)





そう思ったが、ふと横を見ると、千鶴は全く心配している様子がない。





ツツっと再び、和葉が入った。

そして、さっきと同じ軌道で振り下ろす。

当然、佐々木はさっきと同じように防ごうと手元を上げた。

そしてその瞬間、和葉の剣が軌道を変え、加速した。




――――ヒュッ!!





「「「「「――…」」」」」




…和葉の木刀が、がら空きになった佐々木の左胴を捉えていた。




「―――一本!それまで」




一拍置いて総司の号令が響き、道場にはざわめきが広がった。





「…こいつは驚いたな…」





和葉が出した技は"逆胴"(ぎゃくどう、もしくはさかどう)。
あまり使われない技だが、今のは完璧に決まってた。






一礼して、和葉はこっちに来た。

千鶴は手ぬぐいを持って駆け寄り、二人で笑って話し始める。





「よし次!今度は隊士の誰かとやれ。幹部でも構わねぇ」





土方さんがそう指示を出す。
新八が金本とかいう奴を指名した。


斎藤がそれを見ながら喋りだす。





「――計算し尽くされた一本だったな。
初太刀で己の剣をあえて見せ、次で確実に仕留める」





「あぁ。…そのへんは北辰一刀流みてぇだが…どう思うよ、平助」





平助は北辰一刀流の目録だから聞いてみたんだが、何か考えこんでいて気付かない。





「おい、平助?」





「…え!?悪い左之さん…何?」





「だから…和葉の戦い方が北辰一刀流みてぇだなって話だよ。
どうしたんだよ、ボケッとして」





試合が新八の勝ちで終わる。

それを見届けて、平助は俺の質問に真剣な顔で答える。





「いや…
―――俺さ、前に今和葉がやったのと同じの見たことあるんだ」





「!そ…そりゃ本当か!?」





「あぁ。
俺はさ、伊東さんの道場にいたんだけど、一回だけ本家の…御玉ヶ池の玄武館に見学に行ったことがあるんだ。
その時に今と全く同じのを見た。
すげぇって思ったからよく覚えてんだ」




平助の話に、皆して聴き入る。

試合はいつの間にか次の奴のが始まってる。





「…その者の名は?」





斎藤が問う。


「千葉栄次郎。千葉周作の実の息子だよ」





「千葉周作って、あの北辰一刀流の開祖のか?」





「あぁ。栄次郎はその次男で、玄武館最強って言われてる奴だ」





平助の言葉に試合から戻ってきた新八が付け加える。





「神道無念流の道場でも有名だったぜ。"千葉の小天狗"ってな」





「天狗だぁ?」





大袈裟だろうと思ったが、いつの間にか近くに来ていた山南さんに口を挟まれる。





「そのくらい強かったのですよ。私も何度か見たことがありますが、こと竹刀剣術においては敵無しです。
……ところで、玄武館にはもうひとり"天狗"がいたようなんですが、そのことはご存知ですか?」





山南さんの言葉に、俺達は首を傾げる。
平助も知らないみたいだ。




「もうひとり…?」





「ええ。私も実際に見たことはありませんが、噂だけは耳にしました」






――――――「一本!それまで」





総司の声が響く。

回り回って、次は和葉の番だ。





「次!宮尾とやりたい奴はいるか?」




土方さんの言葉に名乗り出たのは、意外な奴だった。


「拙者、お相手いたす」





三番組伍長、林だ。

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あきゅろす。
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