戦う女
3 [side和葉]
「はぁっ…はぁっ…」
息切れが激しい。
だけど、目の前の人間離れした相手は全くそんな様子はない。
今まで色々な人と対峙してきて、敵わない人なんてたくさんいた。
けど、今回はそういう次元の問題じゃない。
あんな動きや再生力は、普通の人間には不可能だ。
「ウゥ…血ヲ…血ヲヨコセ!!」
(血…!?なんで…)
――――ガキィィン!!!!
「ぐっ……力が…っ」
増した――――――
こちらの動きはどんどん鈍っていくのに、相手は更に力が増していく。
それでも、私は人を殺せない。
――ふと雲が晴れ、月明かりが後ろから降り注ぐ。
そして突然、自分の影以外に不自然な影がさす。
(!!しまっ―…)
―――――――ヒュッ
「つっ…!」
後ろから何かが飛んできてとっさに身を翻したが、避けきれなかったそれが頬を掠めて血が流れる。
見ると、同じ白髪の男がもう一人、刀を抜いて立っていた。
刀についた私の血を舐めとっている。
(っ………どうする……)
二対の赤い目がこちらを睨んでくる。
でも、私は覚悟が決まらない。
「宮尾君!!」
突然名前を呼ばれ、目だけそちらに動かすと、近藤さんだった。
「無事か?今助ける!!」
そう言って、一人の男に斬りかかる。
もう一人もそれに反応したため、私はそちらに狙いを定めた。
やがて近藤さんと私は背中合わせで構える。
「近藤さん…どうしてここに?」
私は息絶え絶えに聞く。
「雪村君が知らせに来てくれたんだ。
宮尾君、こいつらは心臓を貫くか首を落とさなければ止まらない。すまないが、共に戦ってもらえるか?女子である君を戦わせるのは心苦しいが…」
近藤さんは本当に申し訳なさそうにそう言った。
「そんなこと気にしなくていいです。
それより、この人達はもう正気に戻ることはないのですか?
殺さずに済む方法は…」
私の言葉に、近藤さんは重く口を開く。
「…残念ながら、こうなってしまってはもう成す術はない。」
近藤さんは、静かにそう断言した。
「―――そう、ですか……」
私は何とか返事を絞り出した。
聞きたいことは山ほどある。
けど、今はそれどころではない。
あの優しい近藤さんがここまで言うなら、これは本当に殺すしかないんだろう。
体から力が抜けていく気がした。
意識も離れていく。
私は目の前の敵を見て、構え直した。
「「はあぁぁ!!!」」
私が地を蹴るのと同時に、近藤さんも地を蹴った。
だが、私が覚悟を決めたからといって、相手の強さが変わるわけではない。
「はぁ!!」
戦いは、互いに連撃をしかけて隙をつき、相手の連撃をいなして隙をつき、の連続だった。
突然、私の動きが止まった瞬間に相手が突きを繰り出してきた。
私はそれを刀で受け止めたが、踏ん張りがきかず、威力が強すぎて中庭の池に吹っ飛んだ。
―――――バシャァァンッ
「う……」
咳き込みながら体を起こす。
うっすら目を開けると、濡れた髪の隙間から、相手が近付いてくるのが見えた。
「血…血ヲ……」
男が目の前で刀を振りかぶる。
その光景が、ある瞬間と重なった。
月明かりを反射した白刃。
なびく白髪と、赤く光る目―――。
(そうか…あの夜も――…)
同じだった、と思った。
「宮尾君!!」
近藤さんの声が聞こえる。
(――終わりだ)
――――――――ザシュッ
――――血飛沫が舞う。
男は刀を振りかぶった姿勢のまま絶命している。
刀を振り下ろそうとした瞬間、私が水中に沈めていた刀を、下から突き上げるようにして男の心臓に突き刺したからだ。
男は、驚愕した表情のまま死んでいる。自分の身に何が起きたかわからないのだろう。
刀を抜くと、支えを失った体が、心臓から血飛沫をあげながら倒れた。
人を殺したという感覚が、身に、心に染み渡っていくのがわかる。
それを表すかのように足元の池の水が赤く染まっていくのを、私は黙って見ていた。
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