戦う女
2 [side和葉]
「健康診断、ですか?」
突然土方さんに呼び出しを受け、何かやらかしたかと緊張して行ってみれば、幾分拍子抜けするような話題だった。
「あぁ。
お前は後から別室で受けろ。
松本先生には事情を話してある」
「?…事情…?」
意味を測りかねて首を捻れば、冷ややかな目を向けられた。
「…他の隊士共に混じって晒を解く気か」
「!!あぁ…それもそうですね」
言わんとしていることをようやく察した私に、片眉を上げる土方さん。
「…お前本当に女か?」
「な…何ですか急に」
「……ここまで無頓着だと疑いたくもなるだろうが。
ったく…気ぃ遣った俺のほうが馬鹿みてぇじゃねぇか」
ため息混じりにそう言われ、さっさと追い出されてしまった。
すいませんと頭を下げ、私は気まずいその場を後にした。
「キャアアァァ!!!」
「…は?」
突然広間から悲鳴が聞こえ、私は慌てて見に行った。
(確か広間では健康診断を…)
やっていたはずだ、と思いつつ、飛び込んでいくと…
「何をなさいますの!
ちょっと!野蛮な真似はやめて下さいまし!」
「いいからあんた、女子じゃあるまいし。
さっさと上を脱ぎなさい」
半裸の隊士がずらりと並んだ先頭で、悲鳴の主は何やら必死に抵抗している。
言わずと知れた参謀殿である。
「……」
参謀殿の前に座って、服を脱がそうとしているのが医者だろう。
呆れ果てた様子で、目の前の伊東殿を見ている。
「まさか伊東殿、恥ずかしがってるんですか?」
私を見つけて歩いてきた原田さんに聞く。
「あぁ。野蛮だの何だのうるせぇんだよ。
女みてぇな悲鳴上げやがるし…」
思わずため息が洩れた。
道場で防具を着けたあの人は、別人のように強いというのに、この差は何なんだろうか。
「お前のほうがよっぽど男みたいだよなぁ」
「そうだね。
否定はしないけど、うるさいよ平助君」
じろりと睨めば、そそくさと列に戻っていった。
だんだん"君"付けするのがめんどくさくなってきたなと思うほど、最近の彼は(あるいは私も)遠慮のない発言をするようになった。
「…よし、異常なし」
やっと伊東殿の診察が終わり、大層ご立腹の様子の伊東殿が去り、列が進み始めた。
「お前はどうするんだ?」
「後から別室で受けるようにとのことです」
そう言いつつ、私は目の前の原田さんの体を見る。
こうして改めて見ると本当に立派な体躯だな、なんてぼーっと考える。
「どうした?和葉」
そう聞かれて、我に返る。
「いや…いつ見ても立派な体だなーって思いまして」
「…お前男の裸見て恥ずかしいとか思わないのか?」
眉を寄せてそう聞いてきた原田さん。
「思いませんね。
玄武館ではみんな褌一丁で水浴びしてましたから」
「…そ、そうか」
そしてそこに後ろからいきなり水をかけるのがとても楽しかった、とは言わなかった。
ふと、私はあることに気付いた。
腹に大きな傷がある。
「…ずいぶん大きな傷跡ですね。
どうしたんですか?これ」
「ん?あぁ」
相当に深い傷だったと見える。
というか、位置的に…
「切腹でもしたんですか?」
冗談半分で言ったのだが…
「ああ、そうなんだよ」
「…え?」
さらりと肯定され、思わず顔を上げた。
「えぇぇ!?」
「お前にはまだ言ってなかったか。
俺は一度腹を切ったんだよ。
つっても死に損ねて、今はこうして生きてるけどな」
笑ってそう言う原田さんに呆気にとられる。
「…よく無事でしたね…
驚くべき生命力です…」
「全くだぜ。
あの頃はまだとんだ若造でな。
大した理由もなく勢いに任せて行動して、気付いたらこんな傷こさえてたぜ」
勢いに任せて切腹とは如何なものかと思ったが、ある意味原田さんらしいなと思って苦笑した。
「…お前、"今だって同じようなもんじゃねぇか"って思っただろ?」
「…思ってませんよ」
とは言ったが、口元が笑っていて説得力がない。
「嘘つけ。顔に書いてあるぜ」
「違いますって。
原田さんは男前だなって思っただけです」
「…じゃあそういうことにしといてやるよ」
ふっと笑ってそう言い、コツンと私の頭を軽く叩き、原田さんも列に加わった。
余談だが、私はこの時初めて、原田さんは色気あると気付いた。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!