AST(00中編) ランチ 「いい?ニール、迷子にならないように僕の側から」 ぴきゅ、ぴこぴこぴこぴこ…… アレルヤが言い掛けたときには、既にニールは鳴る靴の音も軽快に走り出していた。 *** 「うわっ!ニールっ?」 慌ててアレルヤが追い掛けると、ニールはぴこぴこしながら前を歩いていた人物に背後から抱き着いた。 「おっと」 軽い衝撃にその人物は僅かによろける。 「す、すすすすいませんっ」 アレルヤは真っ青になって駆け付けた。 「アレルヤ……と、姫?」 「グラハムさんっ!」 振り返った人物は間違えなくシェフのグラハムだった。 ニールはニコニコしながらグラハムの足にくっついている。 その頭をグラハムは柔らかな手付きで撫でた。 「ああ、驚いたよ姫」 道理でいつも初めは人見知りをするニールが、急に飛び付いたと思った。 きっと直ぐにグラハムだとわかったのだろう。 (ていうか……いつの間に仲良く) アレルヤは少しジェラシーを感じて、むむっとする。 「姫はお出かけかな?」 コクコクと頷くニールの肩からは、可愛いクマのポシェットがかかっている。 「可愛いな、とても姫に似合っている」 「!!」 グラハムが褒めるとニールは頬を赤くして何度も嬉しそうに頷いた。 お気に入りのポシェットなのだ。 中にはハンカチとティッシュと飴くらいしか入っていないのだが。 「ハレルヤが作ったんですよ」 「なるほど、手作りか」 ちなみに裏面には迷子になったときの連絡先がビニールコーティングされて縫い付けてある。 「ふむ、君の弟は相変わらず多芸多彩だな」 「はは、」 以前ハレルヤ手作りのアレルヤ人形を見られているだけに、アレルヤは渇いた笑いを浮かべることしか出来なかった。 *** 「君達は今から何処へ行くんだね?」 「あ、昼ご飯の買い物です」 片手をアレルヤ、もう片手をグラハムに繋がれニールはぴっこぴこと御機嫌だ。 「グラハムさんは?」 「ああ、私は」 そう言うと目線を前へと移す。 つられてアレルヤも前を見ると、そこには『げっ』と引きつった顔をしてこちらを見ている赤毛の人物がいた。 「!!」 キラーンとニールの目が輝く。 「あー……アリーさんと待ち合わせですか」 グラハムはにっこり悠然と微笑むと言った。 「アリー君とランチなんだ。言わば敵情視察といったところか」 「はあ」 「この前の君と同じだよ」 「え」 グラハムは微笑みを浮かべたままアレルヤに問う。 「私の新作は美味しかったかな?」 「は、はい」 「ではソースの隠し味、わかったかい?」 「いえ……」 ガクーンとアレルヤがうなだれると、グラハムは満足げに頷いた。 危険ではない距離で手を放すとニールはアリーへと駆け寄る。 アリーはそれを嫌そうな顔をしながらも高く抱き上げた。 「少しは重くなったな、チビ」 心なしか嬉しそうな表情でアリーはニールの頬を摘む。 ニールはふにゃりと笑ってアリーの首に抱き着いた。 「お前らも行くぞ、昼飯」 「えっ!で、でもっ」 「こいつがいても大丈夫なとこだから」 アレルヤが困っているとグラハムも頷く。 「折角だから、勉強だと思って奢ってもらいなさい」 「…………アレルヤとチビのだけだからな」 こうして、珍しい組み合わせでのランチが決定した。 「ところで……ランチのお店は」 「ここ」 「えっと……ここは」 「君の弟君の職場だよ」 「…………(殺される)」 この後。 まるで針のむしろのようだった、と後日アレルヤは店長に嘆いた。 ----------- あ、ちなみにまったくもってアリーとグラハムの間にはなにもありません(笑) [*前へ][次へ#] [戻る] |