AST(00中編) こいのぼり 「やるよ」 ことの発端はハレルヤが作った小さい『鯉のぼり』だった。 *** 手に持つのに調度良いくらいの鯉のぼり。 それでいて精巧で、ニールは『はわ〜』と鯉のぼりに釘付けになっていた。 「食べるなよ?」 ハレルヤの言葉に一生懸命頷いているのが微笑ましい。 「ハレルヤ凄いね!」 「まあな」 「うわ!鱗一枚一枚縫い付けてあるよ!」 マジマジとライルが観察している。 細かいところまで手抜きしないのがハレルヤらしい。 「良かったね、ニール」 ニールは頬を赤く染めて何度も頷いた。 きっと『お魚さんがたくさん』と思っているんだろうけど。 (後で端午の節句の絵本を読んであげよう) 鯉のぼりの歌も歌ってあげよう、とアレルヤが思っているとニールの手元からライルが鯉のぼりを奪った。 「ライル!」 「…………」 案の定、ニールは突然のライルの行動に着いていけずにポカーンとしている。 「ライル……お前なあ」 呆れたハレルヤがライルから鯉のぼりを取ろうとした時、ライルがニヤリと笑った。 「ニール、この魚はただの魚じゃないんだ」 「?」 ニールは目をパチパチさせて不思議そうにライルを見る。 その反応にライルは楽しそうに続けた。 「この魚は空を泳ぐんだぞ」 「!?」 目を真ん丸にしたニールに、アレルヤとハレルヤは苦笑する。 そこまでは良かった。 「本当はニールなんか簡単に喰われちゃうくらいデカくて」 『喰われる』という言葉に、ニールの身体がビクリと震えた。 「そしてドラゴンになるんだ」 「!!?」 ライルの言葉にニールがギシリと固まった。 それを面白そうにライルが笑いながら見ている。 相変わらずライルの屈折した愛情は、たちが悪い。 「………ライル」 「ライル!また変なこと教えてっ!」 ニールはグスグスと半泣きでハレルヤの足にしがみついた。 よしよしとハレルヤが頭を撫でるが、ベタリと張り付いて離れない。 やはりライルの話が恐かったらしい。 いつドラゴンになるのか、ビクビクしているのがわかった。 「大丈夫、ドラゴンにはならないから」 泣き始めたニールの前にしゃがみ込んで、アレルヤが優しく慰める。 「あのね、この鯉のぼりは『ニールが元気で大きく育ちますように』ってハレルヤが作ってくれたんだよ」 「…………」 アレルヤはライルから鯉のぼりを取り戻して、ニールに見せた。 ニールはハレルヤの足の間から恐る恐る覗く。 「ほら、四匹いるでしょ?」 コクリとニールは頷いた。 「この大きい三匹が僕らで、この可愛い一匹がニールなんだよ」 アレルヤにそう言われて、ニールはハレルヤを見上げた。 ハレルヤは珍しく目元を赤くして顔を逸らす。 「可愛いね、こいのぼり」 コクコク 「みんな仲良しだね」 コクコクコクコク 「ハレルヤも可愛いっ!」 「なんなんだよ!お前はっ!」 ぎゅーっとハレルヤに抱き着いたライルを無視して、アレルヤはニールに鯉のぼりを差し出す。 するとニールはふにゃりと笑って、鯉のぼりを受け取った。 *** 「ほらよ」 「!!」 ライル作のおやつは、こいのぼりを象ってチョコペンでペイントしたホットケーキだった。 ニールはアレルヤが新聞で折った兜を被りながらご機嫌だ。 「美味いか」 「…………っ」 コクコクコクコク 素直に頷くニールの頭をライルはグリグリと撫でる。 「後で柏餅も作ってやる」 「夕飯は粽(ちまき)だな」 「?」 季節の情緒を少しでも味合わせてあげたい。 今まで何も知らなかった、この小さくて柔らかくて温かい存在に。 「健康で、すくすく育てよ」 パクパクとホットケーキを食べるニールを、大人三人は温かく見守っていた。 ------- 鯉は竜になる説から(笑) 大近様! 素敵なリクエスト有り難うございました(^O^)/ お好きにしてください(笑) [*前へ][次へ#] [戻る] |