AST(00中編) せんぱい 「いらっしゃいませ」 いつもと違う店長の様子にニールは目を丸くした。 *** アレルヤはオフを利用してニールを職場のレストランに連れて来た。 ただ食事に来たわけではなく、勉強を兼ねてのことだ。 客側になることによって初めてわかることもある。 (たくさん……勉強して吸収しなきゃ) 度々外食出来るほど裕福ではない。 こういった機会を大切に!と拳を握り決意を新たにしたアレルヤを、ニールは首を傾げて見上げていた。 「席はこちらを御用意させていただきました」 「あ、有り難うございます」 店長が角のあまり目立たない席をリザーブしてくれた。 思わず礼を言うと苦笑される。 流石にディナーのコースは無理なため、リーズナブルなランチを狙って来た。 この時間帯は気軽に単品料理も頼めるし、店の雰囲気も和やかだ。 アレルヤは前から食べて見たかった新作の肉料理、そしてニールには少しでも食べ安いようにハンバーグをオーダーした。 「お待たせ致しました」 アレルヤは運ばれてきた料理に目を奪われる。 (流石グラハムさんだ) 食べる前から美味しいとわかるような……そんな感じだ。 ニールも同じだった様で、ハンバーグを前に口を開けて固まっている。 今にも涎が垂れそうでアレルヤは笑ってしまった。 「食べようか、ニール」 「……………」 コクリと頷いてから、ニールは眉を下げた。 「ニール?」 目の前に綺麗に揃えられているカトラリーにニールはそわそわしている。 (あ……困ってるのかな) ニールは口がきけないため騒いだりはしないけれど、マナーは全く出来てない。 本人も度々手掴みを注意されているので、カトラリーを前に何か緊張したものを感じているみたいだった。 「ニールは気にしないでスプーンで食べていいからね」 「………」 アレルヤがこっそりニールに言うと、安心したのか嬉しそうにニコニコと笑った。 コクコクと頷いてハンバーグを口に入れる。 「…………っ!」 その瞬間、キラキラと目が輝いたのがわかった。 アレルヤはニールの頬が高揚したのを見て安心する。 (早く自分もニールに美味しいもの食べさせてあげられるようになりたいな) そう思いながら、アレルヤは自分のオーダーした料理を食べ始めた。 *** (うーあー!このソースなんだろうっ) アレルヤは唸りながらソースを吟味していた。 複雑に味が絡み合っていて、食べる度に新しい発見がある。 (んー……甘いのは、リンゴかパイン……いや、違う) グラハムに直接聞いても教えてくれるわけないのだ。 舌で覚えて盗まなくては。 ひたすら考えていると、美味しそうに食べているニールが目に入る。 なんだか可愛くて頬が緩んだ。 ハンバーグも綺麗に零さず食べている。 頬についているソースは御愛嬌だ。 (でも、こんなに上手に食べれたっけ?) 昨日もクロケットに丸々かぶりついたのに。 そこで、アレルヤはふと気付いた。 (…………あれ?) 皿に乗っているハンバーグは小さく切ってあるようには一見見えない。 勿論、ニールが自分でナイフで一口サイズに切ることは出来ない。 しかし、ニールの食べているハンバーグはスプーンに上手く乗るくらいの絶妙な大きさだ。 (もしかして………見えないように切ってある!?) じーっと見つめていると、ニールがアレルヤにハンバーグを差し出した。 どうやら『食べたい』と思われたらしい。 「ご、ごめんね!ニールが食べて良いんだよ?」 「?」 (うわー……わからなかった!) 良く見るとハンバーグだけではなく、付け合わせ等全てのものが一口サイズに切り分けてあった。 それをソースや飾りで分からない様に隠してある。 アレルヤはグラハムの気遣いに感動すると共に、自分はまだまだだなあと溜息が出た。 「でも頑張るからね!ニール!」 「???」 ちなみに最後に頼んだニールのガトーフレーズがトライフルになって出てきたときに、アレルヤはアリーにも完敗したのだった。 ------- 皆ニールに甘いだけだったり(笑) 補足:以前出てきたお子様ランチは、店のメニューにはないグラハムオリジナルです(笑) 補足2:先に切り分けるのはマナー違反のためコッソリ(笑) [*前へ][次へ#] [戻る] |