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AST(00中編)
はじめてのおつかい
「弛んでるぞ!」
「はい!」


その日、アレルヤは職場裏の路地で店長に怒鳴られていた。
ホール用のダブリエを忘れてきたのだ。
見習いとして、制服を忘れるということは仕事道具を忘れるに等しい。
アレルヤは唇を噛み締めるとうなだれる。

その時、カツカツと壁を叩く音がしてアレルヤは顔をあげた。

「グラハム」

店長がその名を呼ぶと、金色の髪がフワリと現われる。
グラハムは本日は午後からの出勤のため、今着いたのだろう。
まだ私服のままだった。
「御取込み中すまない」
グラハムはそう言うと、背後に手招きをした。
「来たまえ」
グラハムに呼ばれて、ひょこりと現われた人物にアレルヤは目を丸くした。


「ニール!」


「ああ、やはり君のところの御姫様だったか」
今日は一人で留守番をしていたはずだ。
アレルヤは思わず声を荒げる。
「一人で危ないじゃないかっ!」
「………、」
ニールはおずおずとアレルヤに鍵を見せた。
どうやら鍵は締めた、ということらしい。
しかし、アパートからここまでの距離は決して近いとは言えない。
「鍵をちゃんと締めても勝手に一人で」
「まあ、待ちたまえ」
グラハムはしゃがみ込むと、アレルヤに叱られて萎縮しているニールの頭に手をやった。
「姫は勇敢にもナイトに御届け物を携えてきたようだよ」
「え?」
グラハムが促すとニールは目にいっぱい涙を溜めてアレルヤに袋を手渡した。
「これ……っ」
見覚えのある袋を受け取り、中を確認すると置いてきたダブリエが入っている。
「これを……届けに来てくれたの?」
「………」
コクンとニールは不安げに頷いた。
驚きと嬉しさと、自分の馬鹿さ加減にアレルヤの目頭が一気に熱くなる。
「ニール……!」
アレルヤはニールを引き寄せると思い切り抱き締めた。
「怒鳴ったりしてごめんねっ」
「!?」
涙を浮かべて謝るアレルヤに、ニールはあわあわとアレルヤの頭を撫でる。

(慰めているつもりなのかな?)

見ていたグラハムは苦笑した。
「有り難うっ!ニール!」
コクコクとニールは嬉しそうに頷く。


「坊主に免じて今日は許してやるよ」
「すいませんでしたっ!」

店長の言葉にアレルヤが頭を下げると、ニールも真似をして頭を下げた。
「可愛いな、姫は」
グラハムは微笑むとニールを軽々と抱き上げる。
「よし、私が特製のお子様ランチを作ってあげよう」
「?」
「おや、知らないのかい」
頷くニールにグラハムは言った。
「それは作り甲斐があるというものだ」
そう言ってニールを店内へ連れていってしまったグラハムを、アレルヤは呆然と見ていた。
「うーん、これはグラハムに気に入られたな」
あっさり言う店長に、アレルヤは深い溜息を吐いた。




「で、これをダブリエと一緒に持っていたのだが」
「…………っ!?」


その後、店内に戻ったアレルヤに笑いを堪えたグラハムが見せたものは、例のアレルヤ人形(ウサ耳)だった。








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アレルヤのレストランシェフ→グラハムさんでした★


補足→ニールとグラハムさんは初対面でした。
店のダブリエを持ってウロウロしていたのと、アレルヤ人形を持っていたのからグラハムさんが推測して連れてきたわけです(笑)




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