AST(00中編) であい レストラン閉店後のホールで、アレルヤは店長に呼び出されていた。 今日初めてニールを職場へ連れて来たのだ。 ニールを拾って三日目……独りで留守番させるわけにもいかず、悩んだ末のことだった。(ハレルヤにはまだ言っていない) 「で?」 「はい?」 アレルヤは店長の声で我に返る。 店長は渋い顔をしてアレルヤを見つめた。 「本当に引き取るのか」 「はい」 それはもう考えに考えて結論が出ている。 アレルヤは迷いなく頷いた。 「あのな……お前まだ若いのに自らこんな苦労背負込むことないだろ」 店長の言葉にアレルヤは眉を下げる。 「そんなこと、ないです」 「あ?」 「僕は、ニールに出会って……今よりもっと、頑張れる気がしました」 「アレルヤ……」 「きっと……僕がニールを必要としているのだと思います」 そう言ってアレルヤは離れたところで大人しく座っているニールを見た。 小さい身体は庇護欲を感じさせる。 「しかし、ガリガリだな」 溜息混じりの店長の声にアレルヤも困った様に同意する。 「………まともに食事をしたことがないみたいなんです」 「は?なんだそれ」 「食事を用意しても『食べ物』と認識出来ないというか……こちらが食べて見せれば理解出来るんですけど」 それはこの数日間でわかった僅かなことだ。 「しかも、基本的に手掴みなんですよね」 「……マジかよ」 その時、キッチンからパティシェのアリーが出てきた。 「おい、これやっていいか?」 アリーがアレルヤに見せたのは売り切れたはずの特製プリンで。 アレルヤは笑って頷いた。 「これなら腹にも優しいし栄養もあるからな」 「………」 アリーがニールの目の前にプリンを置くと、ニールは不思議そうにそれを見つめた。 「なんだ、プリン知らねぇのか」 「…………」 「口開けろ」 ニールは言われるままにパカリと口を開ける。 するとアリーは素早くプリンをカラメルごと掬うとその口に突っ込んだ。 「!!!!」 アレルヤと店長はシャララララ、という音を聞いた気がした。 「………今、目が煌めいたぞ」 「気に入ったんでしょうね」 パクパクと一心不乱に食べ始めるニールを、アリーは満足げに頷いた。 *** 「それがニールとプリンの出会い」 プリンを食べているニールの後ろでアレルヤは懐かしげに語った。 それを思いっ切り嫌そうにライルが顔をしかめる。 「よりによって!あいつのプリンが『お初』かよっ」 「まあ、仕方ないんじゃねぇの?」 ハレルヤに言われて更にライルはむくれる。 「俺、あいつ大嫌いなんだよな!」 「ライル」 アレルヤは苦笑いしながら窘めた。 「見掛けによらず繊細なもん作るのがまた腹立つ!」 そう言ってライルはニールが食べていたプリンを取り上げた。 「!!」 急にプリンを取り上げられてニールはポカーンとライルを見る。 「ライル!」 「なあ、俺のプリンが一番美味いよな」 「………っ」 見る間にニールの瞳にうるうると涙が浮ぶ。 えぐえぐと手の届かないプリンを見て涙を零した。 「バカ!」 「いてっ」 ハレルヤはライルの頭をはたいた。 「大人げないことするなっ」 「だって!」 その間にアレルヤがプリンをニールに返してあげる。 「ほら、ニール」 「………っ」 「食べて良いんだよ?」 ニールはスプーンを口に咥えたままチラチラとライルを伺い見た。 「ニール?食べないの?」 ライルからOKを貰わないと、と思っているらしい。 べそをかいたまま首を振る。 「ほらー!可哀相にっ」 「うっ」 ライルは急いで冷蔵庫からホイップクリームを持ってくると、たっぷりとプリンに絞る。 「ほらよ」 「!!」 「食べていいぞ」 「取り上げておいて偉そうなんだよっ」 また言い合いを始めた二人を目を丸くして見ているニールの頭を、アレルヤは優しく撫でた。 するとニールは嬉しそうに笑ってアレルヤにくっつくとスプーンを差し出す。 「甘えただなあ、ニールは」 アレルヤはプリンを救うと、口を開けて待つニールに食べさせてあげた。 -------- 過去話です。 パティシェは口が悪い; アレルヤの勤め先のパティシェがアリー ハレルヤの勤め先のパティシェがライル であい→ニールとプリンの運命の出会い(笑) [*前へ][次へ#] [戻る] |