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短編+リク(00)
【無題】アレニル?

「なんでこんな仕事してんの?」




朝になり店の掃除をしているとカウンターでグラスを洗っていたバーテンダーに声をかけられた。
「え?」
首を傾げると彼は微かに苦笑いする。
間抜けな返事を返してしまったことに気付いて顔が熱くなった。
「新人さん、こういうの向いてなさそうだからさ」
「あ、あの」
「ホスト」
「あ、の」
俺はモップの柄を握り締めて俯いた。
「お金が……必要で」
ボソボソ呟いた言葉はしっかり彼の耳に届いていたらしい。
「正直だな」
また笑われた。
でも嫌な感じはしなかった。
「困っていたらオーナーにお声をかけていただいて」
「あーあいつに」
カチャリとグラスが音を立てる。
ピカピカに磨きあげられていく様々なグラスを僕はぼんやり見ていた。
どうやったらあんなに綺麗に磨けるんだろう。
キラキラ。
「まったくあいつは、純真な奴をひっかけやがって」
その言葉に僕は我に返った。
「あ、あの」
「なに?」
「僕は………純真なんかじゃ、ありません」
「………」
段々と声が小さくなっていく。
彼の視線が自分に向けられているのを感じて胸がジクジクと痛い。
「お、お金のために、女の子達を利用して」
「そういうところが純真だってーの」
僕の言葉を優しい溜息が遮る。
「お前がしているのは、お姫さん達を幸せにしてやる手助けだろ?」
「手助け?」
「にこにこしてろ、そして壊れ物のように優しくしてやれ」
女の子は柔らかくて壊れやすい硝子細工なんだ、と彼は薄いシャンパングラスをカウンターに置いた。
白くて綺麗な指がやけに目に焼き付く。
「魔法をかけてやれ」
「魔法……」
「ほら」
「え?」
シャンパングラスにとろりとしたピンク色の液体が注がれた。
辺りに甘い桃のようなにおいが漂う。
その香りに僕はほっと息を吐いた。
「俺からの奢り」
ノンアルコールな、と笑いを含んだ声だ。
初日に飲み過ぎて倒れたのを思い出して更に顔が熱くなる。
「飲めよ」
グラスに触れると、彼の指に触れたような気がした。
一口飲むと口の中に溢れ出すのは濃厚な桃の味。



「…………甘い」




そのとき、初めて僕は彼の顔を見た。
魔法にかけられたのは僕の方かもしれない。



















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名前も知らないそんなアレニル(笑)





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あきゅろす。
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