[携帯モード] [URL送信]
てのひらだーりん




 恭弥が、ちっさくなりました。

 え、え、え、何事? とオロオロする俺を見て何かぱくぱくと口を動かしているけど、ごめん、聞こえないんだ……
 いつも通り、風紀委員の仕事が終わったであろう頃を見計らって応接室を訪れたら、そこに恭弥は居なくて。トイレか? とソファに座って待とうと思って、ま、座って。視線が低くなって、そしたら、なんか、ローテーブルの上に。居ました、恭弥さん。
 手のひらサイズでしたけど。
「えーと……恭弥?」
 キリキリするこめかみに人指し指を当てて問いかけると、恭弥は不機嫌そうに腕を組んで、斜に構えて俺を睨み付ける。どうやら本人らしい。
「……どうしたんだ?」
 取り敢えず離れていると話がしにくいので、そっと手を差し出してみる。すると恭弥はトコトコと俺の手のところまで歩いてくると、どっかとそこに腰を下ろした。
 そのままそーっと、手の上の恭弥と目が合うように手のひらを顔の前に持ってくる。
 よくよく見ても、どう見ても恭弥そのものだ。キツイ眼差しも、への字に結ばれた口も、身につけているネクタイも風紀の腕章も、細部の造形もそのままに十分の一サイズになっている。……縮尺は目測だけど。
――どう……こ……ない……
 じろりと俺を睨み付ける恭弥の口がぱくぱくと動いた、と思ったら、微かに恭弥のものと思しき声が聞こえてきた。……や、ちょっとなんか高いような気もするけど。
 なに、と手のひらを耳元に持っていく。
「どうもこうもない!」
 すると、思いっきり怒鳴ったのだろう、耳元で突然響き渡るには些か大きな声が鼓膜を揺るがして、俺はちょっと吃驚して手から顔を離した。
 うっかり手の上の恭弥の事を一瞬失念してしまって、手のひらで何かが転げる気配がした。次の瞬間、手のひらに鋭い痛みが走る……トンファー(十分の一)で殴られたようだ。
「ごめんごめん、恭弥、そんな怒鳴んなくても聞こえるっぽいから、普通に喋って」
「全く、ガサツなんだから……」
 改めて手のひらを耳に寄せてやると、恭弥が不機嫌丸出しでぼやく声が聞こえた。
「どうもこうもないよ、赤ん坊に手合わせを頼んだだけ」
「あー……まあ、体よくはぐらかされたって……」
「うるさいっ!」
 耳をぎゅーっと抓られる。地味に痛い。
 多分、リボーンがマトモに手合わせをするのを避ける為に、特殊弾を撃ったんだろう。リボーンがほいほい使うってことは、変な弾ではないはずだ。効き目も、そう長くないだろう。
「ま、そのうち戻るだろ。どうする、此処で効き目が切れるの待つか? ホテル行く?」
「……行く。此処に居ても仕方ないし。」
「ん。じゃあ、此処入ってろよ」
 俺は恭弥の身体をそっとつまむと、コートの胸ポケットに入れてやった。
 なにするの、とちょっぴり暴れられたけど、収まってしまえば存外居心地が良かったのか、それっきり文句も言わずにポケットのふちを握りしめて顔を覗かせている。
 うん、可愛い。
「用事があったらこの辺トントンってして」
 指で自分の胸の辺りをトントンしてやると、恭弥はここだね、と確認するように同じ位置をぱしぱしと手のひらで叩く。携帯のバイブレーションよりもハッキリとした感覚が伝わってきて、コレなら気付かないということもなさそうだ。
「うん、そんな感じ。あと、部下達に『ついに恭弥フィギュア持ち歩くようになったか』とか言われちゃうから、できたらちょっと頭引っ込めてて」
 恭弥は少し不満そうだったけど、仕方ないね、とばかりにポケットの中に引っ込んだ。
 ……そういえば効果がどれくらい続くのかは解らない。これ、ホテルまでの移動中に効果が切れたらどうなるんだろう、という疑問が頭を掠めたが……気にしないことにしよう。死んだりはすまい。
 車で待っていたロマには当然、恭弥は、と聞かれたが、めんどくさいので後から来るって、と言うことにした。
 時々恭弥が動く気配を胸元に感じる。
 トントン、という合図は来ていないから耳を傾けることはしないけれど、時々ポケットに指を入れて覗いてみる。すると恭弥は不機嫌そうな顔で俺の指先をぺちぺちと叩く。
 多分、原寸大恭弥にやられたらぺちぺちじゃ済まない威力の攻撃なんだろうけど、ほら、小さいから。
 恭弥には言えないけど、ちょっと、エンツィオ構ってる気分だ。
 今日は道が混んでいるらしく、さっきから俺達を乗せた車は、ちょっと進んでは止まり、止まってはまたちょっとだけ進み、を繰り返している。いつもの恭弥ならそろそろ、退屈、って言い出す頃かなぁと思ってポケットを覗き込むと。
 ちいさな恭弥はそこで、すやすやと寝息を立てていた。
 疲れていたのかも知れない。
 そう大きくないポケットの中で、まぁるく膝を抱えるようにして目を閉じている恭弥は、もう、なんていうかめっちゃ可愛い。天使だ天使。天使の寝顔。起きたら悪魔だけど。
 うへへ、と思わずあんまりお上品とは言えない笑い声が漏れる。ふと気付くと、ロマがすっげー訝しげな顔で、バックミラー越しに俺を見ていた。
「……大丈夫か、ボォス」
「あ、ははは、ああ、平気だ平気。後で理由話す」
 我に返った俺は乾いた笑いを返して、後は恭弥を起こさないように黙った。
 俺の胸で恭弥が寝てる、そんな小さな、でもこの上ない幸せを噛み締めながら。


 ホテルに着いてもまだ恭弥は寝ていて、しかしずっと懐というのもなんだか落ち着かないだろうと、メインベッドに並べられた枕の真ん中に横たえてやって、布団……は、埋もれるからタオルを掛けてやった。
 そのまま夕飯の時間まで熟睡していたかと思ったら、突然ぼぶんと煙に包まれて、元に戻った。
 洋服ほか、身につけている物にも異常なし。洋服だけサイズが変わらずにキャー★ という事態にはならなかったようだ。よかったよかった……ちょっと残念。
 どうやらポケットの中暮らしは悪くなかった様で、元に戻ったことに気付いた時にはちょっと残念そうな顔をしていた。

「またリボーンに撃って貰えよ」
「……気が向いたらね」
 冗談交じりで言ったら、案外、満更でもない返事が返ってきた。









*----------*


こちらも以前の無料配布。11年のスパコミかな?
発掘できたので晒し晒し。



<<* #>>
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!