「ありがとう。」
「……何、いきなり。」
何をしていたわけでも無かった。
雲雀はただ、ぼんやりとソファに凭れて文庫本を読んでいて、ディーノはその隣でテレビを見ていた。
二人の間には会話もなく、ただし喧嘩したというわけでもなく、ただ、お互いにやることがなくて、夕飯までにはまだ、時間があって。
たいくつ、と雲雀は本を取りだし、話し相手が居なくなってしまったディーノはテレビを点け。
そかしそれで雰囲気が険悪になるということもなく、二人はなんとなくお互いの空気を感じながら、ただぼんやりと、していた。
そんな無言の中で、突然そんなことを言われたものだから、雲雀は訝しげに読んでいた本から顔を上げた。
相変わらずテレビからは異国の言葉が流れていて、それは雲雀には理解できなかったが、もしかしたらその内容に感化されてそんなことを言いだしたのかも知れない、とぼんやりと雲雀が考えていると。
「いや……なんか、こう言うの、良いなって、思って。」
「何が?」
お互いに何をしていた訳でもない。
いつものディーノなら、退屈、だの、構って、だの言い出しても可笑しくなさそうな状況だ。
ディーノの言うことが理解できず、雲雀は眉を寄せる。
「いや……うん、こうやってさ、二人でさ……だらだらする時間って、すごく貴重だなって思って。」
「……そう?」
「うん。だって今まではさ、一緒に居られる間にできるだけ色々やりたかったから、会って飯食って手合わせして、って時間があっという間に過ぎちまってただろ?」
そう言いながら、ディーノは雲雀の方を抱き寄せる。
「だから、こうやってただ一緒にいるだけの時間が持てるなんて、俺すげぇ幸せ。」
「……そう。」
そういうものなのかもしれない、と何となく納得して、雲雀は読んでいた本を机に置いた。
少しだけ素直にディーノの首筋に頭を擦り寄せると、ディーノは嬉しそうに雲雀の髪を撫でる。
「……幸せ。」
ちゅ、と軽い音がして、ディーノの唇が雲雀の髪に触れた。