「ねえ、お菓子。」
「はぁ?」
応接室の扉を開くと、恭弥が仁王立ちしていた。
「お菓子。」
俺は凍りついた思考回路を全力でぶん回し、恭弥のセリフの意図を考える。
「あー………それは、いわゆるtrick-or-treat?」
選択肢、一つしかねーけど。
確かに今日は万節祭の前夜……いわゆるHalloween。
チビたちが魔除けの扮装をして、家々を巡りお菓子をねだり歩く……そんな習慣、ジャッポーネにはなかったと思ったが、確かに近年定着しつつあるのかもしれない。
そして。
あまりの出来事に、脳が現実を受け入れようとしていないが、確かに。
確かに恭弥は、Halloweenの扮装をしているのだ。
真っ黒でフサフサの猫の耳、ベルベットの首輪には金の鈴。ついでに、手に持ったジャック=オ=ランタン。学ラン姿なのはいつも通りだけれど、それが逆に……なんつーか……イケナイ感じっつーの?
え、っつーか、何してるんですかヒバリサン。夢ですかコレ。
「ねえ、お菓子。」
treat or treat。あ、尻尾までついてる。しかも先端にはリボン付き。
……間違いない、夢だ。さもなくば偽物だ。まさか、六道の奴の嫌がらせが!畜生恭弥をこんな姿で辱めやがっげくほぉあ!!
「随分とボリュームの大きい独り言だね……この格好がそんなにご不満かい?」
床に殴り倒された痛みで、現実なのだと知る。
恭弥の苛立った声に、本物かと気付く。
マジ、かよ。
「恭弥……どうした。何があった。」
立ち上がって恭弥の肩を掴む。
やべ、このまま押し倒しちまいたいくらい可愛い……犯罪だ………
「別に……この格好してお菓子、っていえばあなたがお菓子くれるからって、赤ん坊が。」
ぐっじょぶリボーン!!
俺はかつての師に、かつて無いほどの尊敬と感謝の念を捧げた。
ねえお菓子、と苛立った声を上げる恭弥を問答無用で腕に閉じ込める。
「どっかっつーと、いたずらしてほしいかな……」
「嫌だよ。何のためにこんなもの付けたと思ってるの。」
そう言って恭弥は付け耳をつんと摘む。
その様子は当然、殺人的に可愛らしい……
「あーもう、お前反則!!」
「ねえお菓子!」
苛立ちを増す恭弥の言葉が、俺の耳に入る訳もなく。
後でケーキバイキングでも、なんでも連れてってやるし、買ってやるから!!
「先に俺にいたずらさせて?」
恭弥を抱き寄せて、無理矢理唇を奪って、それからソファに縫い付けた。
……………その後三日間、口を聞いてもらえなかったのは、また別の話。