寂しい、なんて思ったことはない。
゛一人は寂しい゛ものらしいけれど、誰かが居るのは鬱陶しいものだ。一人で居るのが普通で、一人の方が心が落ち着く。
だから、あの鬱陶しい自称家庭教師がイタリアへ帰ったのは喜ばしいことのはずだ。
「委員長。」
突然掛けられた声にハッとする。
顔を上げると、草壁が書類を持って立っていた。
こんなに近づかれるまで気付かなかったなんて。
「……置いておいて。」
「はい……」
僕の言い付けに忠実に従って、草壁は机に書類を置いた。
いつもならそのまま一礼して立ち去るはずの草壁が、しかし今日は何故かそこから動かない。
「委員長……お茶のご用意をしましょうか。」
草壁の提案にそうして、と答えると、すぐに緑茶と大福が出てきた。
昨日まで数日間ケーキ続きだったから、つい珍しいと思ってしまう。
草壁を下がらせてお茶に口を付ける。
紅茶にはない苦味が、なんだか久しぶりだった。
……そう、ディーノはこの苦味が嫌いだから。コーヒーは、飲める癖に。
彼が来ている時は決まって紅茶で、だから決まってケーキなのだ。僕は和菓子の方が好きだから、洋菓子をお茶請けにするのはディーノが来ている時だけ。
こくりともう一口お茶を飲み込む。
なんだか渋くて、紅茶がいい、と思った。
……ディーノ。
早く僕に会いに来なよ。