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Accident[後]




 「あなたって本当に無鉄砲だね。」

 そのまま、ロマーリオの手によって二人とも病院にかつぎ込まれ検査だ何だと手当を受け、次に恭弥と顔を合わせたのはすっかり夜になってからだった。
 −−幸いにも二人とも大きな怪我はなく、その日のうちに家に帰して貰う事ができた。
 帰りの車の中では二人とも何となく無言で、家に着き、俺の部屋に戻り、お互い、ソファとベッドにそれぞれ腰を落ち着けて、どちらからともなく溜息を吐いて。
 それからようやく、恭弥が口を開いた。

 「無鉄砲って……」

 折角助けてやったのにその言い方はねぇだろう、と思いながらも、部下の静止を振り切って無策に突っ込んでいった事実は否定できない。

 「あなたなんかに助けて貰わなくても、自力ででられたよ……」

 「恭弥……」

 「全く……死んだら、どうするつもりだったのさ……」

 恭弥の声が、少しずつ小さくなる。
 震える代わりに強がり、涙を流す代わりにそっぽを向く、そんな恋人の事なんてよく解っているから、俺は無言でソファから立ち上がり、ベッドに座る恭弥の隣に腰を下ろした。

 「恭弥と一緒なら、死んでもいいって思った。」

 やんわりと抱きしめてそう言うと、馬鹿、と小さく囁く声が聞こえた。

 「……………こわかった。」

 それから、聞こえるギリギリの小さな小さな、震える声。
 うん、と抱きしめて頭を撫でてやると、その震えはすぐに全身に広がってしまう。
 宥めるように背中を撫で下ろし、髪に、額にキスを降らせる。
 強がっていたって、怖かったのだろう。

 「無事で良かった。」

 口に出すと、急に俺自身、安堵に包まれる気がした。 
 本当に良かった。腕の中の華奢な体を抱きしめてから、頬にそっと口づけようとした。
 すると不意に恭弥が身じろいで、冷たい手が俺の頬を包んだ。
 うん、と思っている間に恭弥の顔がぐっと近づいてきて、ほんの一瞬、唇が重なった。

 「………お礼っ!」

 もう二度としないから、とそっぽを向いた恭弥が、可愛いのなんのって。
 と、思ったときにはベッドに縫いつけていた。
 今日はゆっくり寝かせてやろうと思ったんだけど、駄目な大人だ。

 「ちょっと……!」

 「ごめん、でも恭弥可愛すぎ。」

 「僕が悪いみたいな言い方しないでよ……っ…ん…」

 じたばたと抵抗する足を自分の足で絡め取って、深く深くキスをしてやれば直ぐに大人しくなる。
 その隙にシャツに手を掛けて脱がせてしまう。露わになった胸へ手を伸ばすと、ぴくりと恭弥の背中が可愛く跳ねた。

 「も……ばかッ……」

 鼻に掛かった甘い声で抵抗されたって、了承の返事にしか聞こえない。性急に恭弥のベルトに手を掛けようとすると、あなたも、と小さな声が聞こえて、恭弥の手が俺のシャツの裾から背中に入ってきた。
 あ、ちょっと、それは、待て、コラ。

 「いっ………て……」

 静止する暇もなく恭弥の手が俺の背中に当たり、走った激痛に俺は顔を歪めた。
 あー……ヒリヒリする……くそっ。

 「……あなた……」

 驚いた顔をしていた恭弥が、いきなり起きあがった。
 突き飛ばされるように俺は体勢を崩したが、辛うじて手をついて背中から倒れ込む事は避けた。

 「うしろ、向きなよ。」

 起きあがった恭弥に肩を掴まれ、ねじるように体の向きを変えさせられそうになる。

 「なんでもねえって……!」

 「どうせ嘘でしょ。いいから早く。」

 背中の痛みもあって逆らいきれず、結局背中をめくり上げられてしまった。
 まあ、ガーゼ当たってるからただれた痕は見られないだろうけど。と思っているとぺりぺりと絆創膏を剥がす音がする。

 「あ、待て恭弥、剥がすな!」

 「うるさ……」

 最後まで言いきる前に、恭弥の声がとまる。
 あーあ、見られちまった……

 「これ、何。」

 「あー……やけど?」

 「…………馬鹿じゃないの……!」

 乱暴に、剥がしたガーゼを元に戻された、らしい。瞬間、背中がひりついた。

 「けが人は大人しく寝てろ、馬鹿……!」

 吐き捨てるように言って、恭弥は立ち上がるとベッドから降りてしまった。
 あ、と思ったけれど、恭弥なりの気遣いなのは分かるから追いかけない。
 ……でも、俺の部屋に泊まらせるつもりで客間の用意、してねーんだよな。

 「恭弥、ありがとな。」

 呼びかけると、別に、とそっぽを向かれた。
 そのまま恭弥はソファに腰掛けてしまったけれど、部屋を出ていくつもりもないらしい。
 可愛い奴。

 「こっち来いよ……なにもしねーから。」

 「信用できないよ種馬。」

 「たねっ……!?……絶対、何もしねぇ。」

 背中いてーもん、とちょっとおどけて笑ってみせると、恭弥は溜息を吐いて、それからやおら立ち上がってこちらに戻ってきた。

 「何かしたら容赦しないからね。」 

 そう言いながら布団に潜り込んでくる華奢な体を抱き寄せて、うん、と頷いた。
 手を出したらなにされるかわかったもんじゃねえから、大人しくそのまま眠ることにする。

 「お休み、恭弥。」

 囁いてやると、フン、とか言いながら恭弥は俺の胸に顔を擦り寄せてきた。
 その頭を抱き寄せて、髪にキスをした。

 どうか、安らかに眠れますように。俺も、お前も。








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ニュースを見ていたら、事故った車の中から助けて貰った女の子が「ワォ!怖かった。でも貴方って本当に無鉄砲なのね」的事を助けた人に言った、という話をしていて。(外国の話です)
ちょ、そこでワォ、と思って妄想繰り広げてみました。
防弾ガラス蹴破れるのか?とお思いの方、火事場の馬鹿力だと思って下さい。(←




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