あいつとのキスは、いつもタバコの匂いがした。
中坊の癖に愛煙家だったから、俺のファーストキスはタールとニコチンの味だった。
ぴり、と舌にくる苦味も、つんと鼻につく紫煙の匂いも、ずっとずっと、傍にあるのだと思っていたあの頃。
経営を学ぶために大学へ進んだ獄寺。
高卒でプロ入りして、メジャー目指してアメリカへ来た俺。
別れ話なんて無かったけど、言うなれば自然消滅?
照れ屋な獄寺はメールや電話をしてくるようなタチではないし、そんなあいつの気持ちを気遣ってやれるほど、俺も余裕がなかった。
一度だけ帰国したときに見せたよそよそしさが全てで、獄寺の隣にいたツナの、その申し訳なさそうな顔で俺たちは終わったんだと知った。
もう、終わったんだ。
もっとドライだと思っていたはずの自分は醜いくらいに未練がましくて、世紀の恋だと思っていた恋は結局ただの初恋だった。
……分かっていても、あの苦い唇が恋しくなる日もある。
あいつの吸っていたタバコの銘柄を忘れられる訳なんてなくて、いつも買い置いてあるそれを引き出しから取り出す。
スポーツマンにあるまじき行為、と思いながら、思い出を辿るように火を点けた。