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恐怖コラム
苫前三毛別事件
 北海道では神のことをカムイ、山の神でありその化身である熊をキムンカムイという。そして人に害をなす神を、ウェンカムイと呼ぶ。この事件は日本史上最悪のウェンカムイ事件、通称「熊嵐」だ。

 それは大正四年、雪の匂いがし始めた十一月のことだった。干していたとうもろこしがヒグマによって食われるという事件が度々起こる。マタギたちが鉄砲を片手にヒグマを追うも、かすり傷だけを負わせ逃してしまった。だがそれは、予兆にしかすぎなかったのである。

 太田家の主人が家に帰ると、いつも元気な息子が眠っていた。起こそうとして、主人は息を呑んだ。息子は頭をえぐられ、絶命していたからである。そういえば妻の姿も見えない。主人は家を探した。すると、血にそまった寝室が目に飛び込んできた。べっとりと血が染み付いた床にはひきずられたような後があり、それは鬱蒼と茂る森へと繋がっていた。

 すぐに捜索隊が結成された。森の中を探索し数分、そこにはヒグマと、頭部と足だけの死体があった。発砲、だが不発。ヒグマを取り逃がしてしまう。
 思えば、悪夢への火蓋は、このとき切られたのかもしれない。

 惨劇を語る前に、ヒグマについて説明したいと思う。
 山の神と呼ばれるヒグマは、体重100キロから400キロで、長身は二メートルにも及ぶ。爪は鋭く獰猛で、力も強く、一撃で命を掻っ攫う。逃げようとする者には特に反応し、その背を追う。俊足の速さ、およそ時速五十キロ。
 雑食で、なんでも食う。一度食したものは食料と認識するとどこまでも執着する。たとえ同じヒグマでも、人間でも。

 突然の熊嵐に恐怖のどん底に突き落とされた人々を、更なる恐怖が襲う。その夜、通夜にヒグマがやってきたのだ。太田家はふたたび恐慌状態となった。あわや惨事というところで発砲によりヒグマが逃走する。


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