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恐怖コラム
美への執念、血の夫人エリザベート
 1600年代のハンガリーにチェイテ城という城があった。城の主人はエリザベート・バートリーという四十台の美女。
 しかしその美しい女主人が暮らす城には、奉公に行った少女が帰ってこないという実に奇妙な噂があった。
 噂は奉公に出した親達にも伝わり、彼らはエリザベートに申し立てた。しかし、「少女達はとっくに帰った」の一点張りで、親達は疑問を抱きながらもなすすべなかった。

 そしてその頃だろうか、婦人の夫、その母が死に、奇妙な出来事がもうひとつ増えた。
 子ども達が消え始めたのだ……。

 そう、噂は真実であった。エリザベートは彼女達を使い、恐ろしい儀式をしていたのだ。
 すべては美のため、若返るため。
 エリザベートは少女達の血を浴びていたのである。

 まず牢屋からさらってきた少女達を出すと丸裸にして刃物で切り刻んだ。部屋の床には一本の溝が通っており、血は集められて隣の部屋に溜められる。そしてそこで、裸になったエリザベートは、血のバスタブに体を沈めるのだ。
 これを十年、彼女は続けた。

 きっかけは些細なことだった。召使いがエリザベートの髪をといていたときのこと。間違って召使いは彼女の髪の毛を何本か抜いてしまった。
 怒り狂った彼女は召使いを手鏡で殴り続けた。返り血が夫人をぬらし、そのうちに彼女は快感を覚えた。
 その翌日、彼女は血を浴びた部分だけが若返っていることを発見してしまう。

 それはもしかしたら残虐な快楽による理由付けだったのかもしれない。ただの血液が若返りの作用を持つなど、現代の医学でも証明されていないのだから。
 だか、彼女は思い、実行するのだ。
 夫が生きている間は小動物を殺し、夫が死んでからは夫の母を殺害し、下女も殺し、血を浴びた。

 足りない、血が足りない。血まみれになりながら彼女は狂気に身を委ねていく。

 夜、寝静まった頃、人目につかない入り口に馬車が到着した。その馬車から降ろされるのは年端の行かない少女達。猿ぐつわをかまされ、両手を縛られた彼女達が行く道の先は、あの、儀式。

 十年の時がたち、噂はついにハンガリー国王の耳に入った。王はすぐに国の調査を城に入れる。
 そしてそこで発見されたのは、儀式の抜け殻。膨大の数の白骨死体であった。

 すぐに城のものたちは捕らえられ、生きながら火あぶりにされた。主犯格であるエリザベートはというと。
 少女達を閉じ込めていた牢獄に入れられ、真っ暗な中で食事だけを与えられ、生かされ続けた。
 閉塞された闇の中、四年間も彼女は罪を背負い続けたのである。

 死後、彼女の死体を引き上げてみると、その体は暗闇に蝕まれ壊れていた。54という年齢とは不釣合いの、まるで80年生きた老婆のようだったと言う。
 彼女は最期、美とは程遠い姿で息を引き取ったのである。きっと彼女にとっては、もっとも残酷な刑であったに違いない。

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あきゅろす。
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