恐怖コラム 家を建て続けた未亡人 ウィンチェスターミステリーハウス、そうその家は呼ばれている。 1900年代、39年も休むことなく増築され続けた巨大な豪邸、その部屋数は160、そのドアの数2000、その窓の数10000! 47の暖炉、40の階段と寝室、6の金庫室、階段は13ステップ、浴室の数13、ひとつのキッチンの排水溝の数13、だけど鏡の数はたったの2枚……。 この奇妙極まりない豪邸を作ったのは、若くして未亡人となった美女、サラ。彼女はどうして、このような屋敷を作ったのだろう? 彼女は裕福な家庭に育ったとても小柄な音楽家で、誰にも愛される女性だった。そんな彼女は22歳の時ウィンチェスター財閥の若き代表取締と結婚、とても幸せな日々を送っていた。可愛らしい愛娘アニーも生まれ、彼女は幸せの絶頂にいた。 しかしその絶頂のすぐ隣は、崖であった。 まず最初に、アニーが死んだ。そして次に夫の父であるオリバーが死に、サラの両親が死に、最後に残った最愛の夫のウィリアムが死んだ。 彼女に残されたのは莫大な資産だけとなった。 どうしてこんなにも不幸が続くのか……喪に服しながらも彼女は考え、一人の占い師を頼った。 占い師は彼女に、ウィンチェスター家には悪霊がついていること、永遠に家を立て続けないと悪霊に殺されて天国の家族に会えないこと、悪霊に会わないために顔を隠し続けて生きること、をサラに命じた。 悪霊。 到底信じられない超非現実な占いを、だがサラは信じた。ウィンチェスター家が恐ろしい悪霊に取り憑かれる理由、……彼女は覚えがあった。 サラの夫が経営していた会社は、南北戦争時代に13連の名銃を開発し、膨れ上がった会社であった。つまりサラの巨万の富は多くの屍の上に築かれたていたのである。 サラは悪霊につかまり地獄に落ちてしまわないよう、そして天国にいるという家族に会うために、家を建て続けた。彼女の夫が残してくれた会社からは、なにをしなくても1日あたり1000ドル以上(現在の日本円にして300万円以上)支給されていた。その殆どを、彼女は美しい豪邸に費やし続けた。 つまり−−、 窓を開ければ壁! ドアを開ければ部屋がなく三階へまっさかさま! 階段をのぼれば最後の一段は3メートルを越える高さ! 床にはドアがついており、隠し通路に隠しドアに隠し部屋の数々! 地図を持たずに入れば永遠に出ることは叶わない!! まさにミステリーハウスの名に相応しい家。亡霊も人も迷えば出られない迷宮を、彼女は作り続けたのである。美しい顔を黒いベールで隠しながら。 さて、このサラの行動に対して、ある人はこう言う。 「占い師に騙されて無駄金を使ったのだ」 しかし私はそれを無駄金とは思わない。家を建てているとき、彼女は夢をみていたはずだ。増築の末に、愛する家族と出会うという、儚く穏やかな夢だ。 若くして愛の全てを失い、ただ使い切れない金だけが残った不運なサラ。家を建て続けるために再婚も選ばず、ただただ天国をみつめていたサラ。 その夢は、なにものにも変えがたい。 [前へ][次へ] [戻る] |