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恐怖コラム
レントゲン
 それは青年がまだ医学生だった頃の話だ。彼は学生として様々な科をまわされて勉学に励んでいたのだが、呼吸器科に配属されることとなった。
 とはいえ学生だったので医者の後ろについていくことが多かった。

 ある日のこと、いつものように診察室で医師の後ろにたっていると、肺ガンで通院する患者がやってきた。中年の、やけに太った目つきの悪い男だった。
 医師は患者に手馴れた説明をし、レントゲンを見せると帰した。

 患者が廊下へと引っ込んだ後、医師は青年に向きなおす。
「なぁ面白いものをみせようか」
 医師はそう笑うと、戸惑う青年の目の前で、ファイルを広げ始めた。そのファイルは先ほどの肺癌患者のもので、白い影が何層にもわたって描かれている。
 その中から医師は患者にも見せていないレントゲンを差し出した。青年はそれを手に取ると、戦慄した。

 レントゲンの病巣部、そこには癌腫瘍特有の白く厚ぼったい影ではなく、無数の、まるで人の顔をした粒粒が映っていた。みな、苦悶や憤怒、憎悪の表情を浮かべている。

「あの患者はね、たぶん助からないよ」

 医師はさも当然のように笑うと、それを丁寧にしまいこんだ。

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