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恐怖コラム
双眼鏡
 彼には趣味があった。夜中に家の屋上に出て、そこから双眼鏡で自分の住んでいる街を観察するという、少し変わったものだった。
 彼の家の西側には長い坂道があり、それがまっすぐ彼の家の方向に向かって下ってきていた。そのため屋上から西側に目をやれば、坂道全体を見ることができた。

 ある日のこと、彼は坂道の脇に設置されている自販機を双眼鏡から覗き込んでいた。
 大きい蛾が飛んでいる、そんな些細なことを思いながら観察していると、坂道の一番上から激しい勢いで下ってくる何かがいた。

 なんだろう、と見てみると、それは全裸でガリガリに痩せた子供のような男だった。それは満面の笑みを浮かべながら彼に手を振りつつ、猛スピードで走ってきていた。
 明らかに彼に気づいている様子。彼はゾッとして階段を下りると、急いで家に逃げ込んだ。
 ドアを閉め、鍵をかけ、彼は困惑した。
 何者なのか。そう怯えていると、屋上への階段をかけあがる音が響いた。それが彼を探しているのだ。

 突然の非常事態、非現実に彼を息を殺して身を潜めた。
 しばらくすると、今度は階段を下りる音。それはどんどんと近づき、大きくなり、

 ダン ダン ダン ダン ダン ダン!

 扉が激しく揺れる。彼は喘ぎ喘ぎ身を縮めて祈った。こっちにくるな、くるな、くるな。
 ピンポーン……
 ピンポン!
 ピンポンピンポンピンポン!!

 チャイムが激しく鳴る。そして扉越しにそれのうめき声も聞こえた。まるでガムテープで唇を閉じられた男のような声だった。
 どれほどの時間がたったのか、ふいにうめき声もチャイムの音もノックもやみ、静寂が訪れた。彼は動くこともできず、そのまま朝を待った。

 それからというもの、彼は双眼鏡を使うことをやめた。

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あきゅろす。
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