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恐怖コラム
ガソリンスタンドにて
 その女性は、夜道を車で走っていた。
 人気のない暗い道を進んでいると、ガソリンの残量が少ないことに気付いた。仕方なく彼女は、ガソリンスタンドに入った。

 ぼんやりとした明かりの中に、ぼっと男性店員が突っ立っている。客が来たのにも関わらず彼は、女性をじっと見て動かない。声をかけるとようやく、店員は給油を始めた。
 薄気味の悪い、今にもつぶれそうなガソリンスタンド。愛想の悪い店員は、給油しながらもジロジロと女性を見つめている。
 気持ち悪い店……。女性は早く出たい気持ちでいっぱいになり、すぐにクレジットカードを店員に渡した。

 すると彼は、これは偽装カードである、と言った。
 真面目に生きているごく普通の彼女にとって、それは正に寝耳に水。当然、それを否定した。
 しかし店員はなおも食い下がり、偽造カードであるから事務所に来てもらう、と彼女を促し、しまいに彼女の腕をぐいっと引張り始めた。
 恐怖心のあまり足のすくんだ彼女は、店員に促されるまま、プレハブ小屋のような事務所に入ってしまった。

 店員が鍵をかける。その動作を見つめながら、女性はぶるぶると震えた。
 きっと酷いことをされるに違いない、逃げればよかった。そう彼女が後悔していると、店員が電話をかけ始めた。

「もしもし、警察ですか? 大変なことが起こったのですぐに来てください」
 女性は仰天した。店員が警察を呼ぶとは思わなかったからだ。本当に偽装カードだったのだろうか、そう彼女が困惑していると、店員が部屋の隅から手招いた。
 何事だろうと近づくと、暗い店員の表情が、どこか安堵の色を灯しだした。

「ここなら安全です。マジックミラーなので、こちらの様子が見えませんから。いいですか、落ち着いて、けして声を出さないように見てください」
 そう言って店員は、女性の車を指差した。車を見て……女性はひっ、と息をのみこんだ。

 車の後部座席。
 そこに、見知らぬ男が座っていて、じっと事務所の様子を伺っていた。
 両手に包丁を握り締めながら。

情報提供・影之兎チャモ



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