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恐怖コラム
クレヨン
 ある夫婦が中古の家を購入した。それほど古くはないのに値段は安く、夫婦は良い買い物が出来たと喜んでいた。

 知人に引越しを手伝ってもらい、夫婦と知人たちはそのまま夜まで飲み明かすことにした。
 一階にあるリビングでわいわいと飲んでいると、突然、バタバタバタ! と天井から足音のようなものが響いてきた。上の階に人がいるはずない。
 泥棒かと思い耳をすませていると、今度は子供の笑い声のような音が……驚いて階段を上る。
 しかしやはり、そこには誰もいない。

「まさか、いわくつきの物件なんじゃないか」
「いや、そんな話は聞いていないよ」
 そんな会話を交わしていると、夫婦の足元を何かがコロリと転がった。それはクレヨンだった。

 得体のないものに対する恐怖を覚えながらも、クレヨンが転がってきた先を見た。それはただの壁だった。
 なんとなしに壁を叩いてみると、軽い反響音があった。
 空洞だ。

 壁紙をはがすと、なんとそこには扉が現れた。全員で顔を見合わせ、おそるおろるその扉を開けると……。
 しかし、そこには何もなかった。ただの物置のようだが、何もない。
「なんだったんだろうな」
 拍子抜けしながら、夫は天井からぶら下がっていた紐をすっと引いた。パッと電気がつく。だがやはり、そこには何もなかった。

 ただ壁には、こう書かれていた。

おとうさんおかあさんごめんなさいごめんなさいごめんなさい
おとうさんおかあさんごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ここからだしてくださいおとうさんおかあさんここからだしてください
ここからだしてくださいここからだしてくださいここからだしてくださいここからだしてください
ここからだしてくださいここからだしてくださいここからだしてくださいここからだしてくださいここからだしてくださいここからだしてくださいここからだしてください
ここからだしてください……

 幼い文字で、クレヨンで、全ての壁にびっしりと、その悲痛なメッセージは書かれていたという。


 情報提供・影之兎チャモ(伊集院光のラジオ番組より)


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