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おはようからおやすみまで。
ベッタベタな奴ほどベタな展開((何



『これは確実に浮気、ですね。』

「……さすがに庇いようがない。」



私と瑞貴先輩は、葛城君と謎の美女とのデートを尾行していた。尾行を続けて数十分。二人は仲睦まじい様子で、完璧に二人の世界に入っている。……藤澤さんになんて報告しようかな。



「これはもう絶対クロだって。帰ろ帰ろ。」

『え、でも……。』

既に瑞貴先輩は尾行に飽きているようだ。珍しいなー、いつもそういうポジションにいるのは蓮先輩だし。でも、諦めるのはなぜか嫌だな。もしかしたら何か事情があるのかもしれないし。


「実はさ、この後用事があるんだ。」

『へぇーそうなんですか。―あ、』

―ブー、ブー

頼んだわけでもないのに話し出した瑞貴先輩を適当に受け流していると、携帯のバイブが鳴った。もちろんマナーモードです。さすが私。携帯の画面を見ると“芦屋ゆーり”の文字が。


『あ、ゆーりから電話だ。…もしもし?』

〈あー奈央?私と朔夜で会話の盗み聞きでもしてこようかと思ってるんだけどさー、どう?〉

『どう…って、マズイでしょ、それは。』

〈うーん、やっぱり?〉

『うん。一応先輩にも聞いてみるよ。』

別にいいと言うゆーりの声を、聞こえないふり(つまりは無視だ)をして「先輩、」と振り返る、と。



『―――え。』

いない。あのサボりとは一番無縁そうな瑞貴先輩が、いない。持ち前の影の薄さで人混みに紛れたのかな。脳裏に浮かぶのは、彼の黒いにやけ顔。あぁ、油断した。逃げられたよ。

電話中だったことも忘れて呆然と立ち尽くす私。



〈もしもーし?奈ー央ー、切るよ?〉



―――――――――――――――



通話の切れた携帯をポケットにしまってから、とにかく尾行は続けねばと一人で歩いて早10分。そろそろ辛くなってきた(心細くて寂しくて)。

ついに私も帰ろうかな、なんてそんなことまで考えていた時、背筋がぞわりとした。……うわ、デジャヴュ。そろそろ慣れてしまいそう。



「……あれ、佐倉。」

『あぁ、…………碓氷、君。』

「何その間は。」





何の嫌がらせでしょうか?






(…………。)

私のあげた(というか奪った)飴玉を舐める彼をちらりと見遣る。先生から頼まれた仕事のお陰で普通に話せるようにはなったけど、でもまだ恐怖意識はあった。第一印象悪すぎたんだよ、きっと。





彼とばったり出会ってしまったのは5分ほど前。部活中だから帰ってと言ったら、ぜひ参加させろと無理矢理私の後を付いてきたのだ。言葉の選択ミスしたなぁ。

私が悶々と考え事していると、碓氷君は私に話し掛けてきた。


「ていうか、何してんの。」

『何……って、部活だけど?』

「うん知ってる。内容は?」

『え、と。……つ、追跡調査?みたいな……。ははは……。』

依頼内容って言ってよかったんだっけ。一応笑ってごまかしてみたけど、しっかりと口外してたことに気がついた。


「ふーん。それってさ、飛鳥の?」

『うん、って。えぇ!?何で知ってるの!?』

「ダチ。中学同じだから。」


本当にこの人、苦手。彼の発言の8割はぶっ飛んでる。心臓に悪いから、ね?……いや、ちょっと待って。ということは?



『ね、碓氷君。葛城君と一緒にいる人が誰だか知ってる?』

「あー、うん。多分だけど、





飛鳥の姉貴。」





(うわぁ、何このベタな結末。)



―――――――――――――――



彼の言うことって信憑性が薄い(気がする)と思っているから、実際に確かめるために、碓氷君に偶然を装って葛城君と接触してもらおうと思っていた。……はずだったのに、何故か私も引っ張られて同席するハメに。



しかし、結果は変わらず。葛城君の隣の美女は確かに彼の姉だった。すごく美人さんで、(思わず見惚れたなんて言えない)よくよく見てみると、どことなく葛城君と似ていた気がしないこともない。



何をしているのかと問えば、彼は頬を少し赤く染めて、

「実はさ、もう少ししたら七瀬との一周年記念日なんだよ。」



―――――――――――――――



『いいなー、私も彼氏欲しいー。』

「可能性は、……うん。無いことも無い、と思う。」

『うわーゆーり、なんで真剣に考えた答えがそれなの。酷くない?』


捜査の翌日の放課後。私達は3Kに集められていた(蓮先輩は生徒会)。この後に藤澤さんに調査結果を報告するためだ。

……しかし、なんて報告しよう。葛城君の幸せそうな顔が思い出される。


結局葛城君は浮気なんてしていなかった。一周年のサプライズで藤澤さんにプレゼントを買おうとして、彼のお姉さんに付き合ってもらってたようだ。でもサプライズだから藤澤さんにバレては意味が無い。だから自然とコソコソしたようになってしまったようだ。


「どーするー?本当の事は言えねーし。でも下手な嘘はつけねーし……。」

「瑞貴先輩仮にも部長でしょ?何か良い案ないんですか。」


浮気疑惑は綺麗に晴れた。それは本当に良かったんだけど、問題が一つ残った。

夏目君とゆーりが話している通り……藤澤さんだ。下手にごまかせばショック死しかねない(これは本気で)。でもサプライズを本人にバラすのは葛城君に悪い。非常に悪い。まさに八方塞がりだー、なんて頭を捻っていた時。



「し、失礼しまーす。」

「「「「「 !!!!!! 」」」」」


(本人キターーー!?)



―――――――――――――――



「それで、結果は……?」

「えぇと、ですね……。」

対応は瑞貴先輩の右に出るものはいない……が。今日は例外だった。さすが藤澤さん。あんなに焦ってる先輩も珍しい。貴重だ。……いや、そんな呑気な事は言っていられない。彼女泣きそうだよ。

「……お願いですから、本当の事言ってください。」

「だから、ただご友人と出掛けていただけで……。」


瑞貴先輩が何を言っても話が進まない。もはやここまでか……。皆が諦めたその時。


「すいまっせーん、遊びに来ましたー……って、あれ。君、飛鳥の彼女じゃん。てか何みんな、しんみりしちゃって、どしたの。……ま、いいか。それよりもさー、昨日飛鳥と出掛けてきたお・み・や・げ☆いつもお世話になってるからさー、FBI部にあげるよ。みんな饅頭食べれるよねー?」

『う…すい。』

「え?昨日??それじゃあ……、」


突然部室に飛び込んできたのは、誰だろう。ねぇ、この人知ってる?



―――――――――――――――



部室にやってきた碓氷君のお陰で、藤澤さんは何とか私たちの報告を信じてくれたのだ。

事件も意外な(というか不本意な)形で結末を迎え、私と碓氷君は屋上にいた。何でって、報酬として私がジュースを奢るはめになったからですが何か。



フェンスにもたれ掛かり空を見上げる。あー、夕焼けが綺麗だな。夕日が目に染みる(いろんな意味で)。横目で見ると、碓氷君は美味しそうに炭酸飲料を飲んでいた。はぁ、と盛大にため息をつく。

『何で碓氷君にこう何度も助けられなきゃいけないんだろ。』

「うわー。俺の迫真の演技を、そうやって悪く言うんだ佐倉さんって。」

『え、いや、……ゴメンね?そんなつもりじゃなかったんだけど。』


珍しく本気で悲しそうな顔をする碓氷君に、私は謝った。しかし、

「うっそー。」

『何だよぉ。私の謝罪を返せ。』

「無理。ほら、俺演技派だから。俺のお陰なのは変わらないじゃん?」

確かに彼がいなかったら、藤澤さんは葛城君が浮気をしていないということを信じてくれなかったかもしれない。でも何か、癪だよね。

誇らしげな顔の碓氷君を見ていると無性に悔しくて。

『そーですかそーですか。……じゃあ私はもう戻るから!!じゃあねっ。』



ふん、と夕日に背を向け走り去った私の後ろ姿を見つめる優しい視線に、私はまだ気がつかなかった。





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