おはようからおやすみまで。 正義のヒーローはギリギリでやって来る ここは陵泉高校……から、少ーしだけ離れたコンビニ。 放課後、学園の出入りが自由になると生徒達で混み合うコンビニだったが、日が沈んだ今は、まるで何かが溜まっていそうな、薄暗い雰囲気が漂っている。 部活の試合(ババヌキ大会)で負け続けた佐倉奈央は、パシリという名の罰ゲームを受け、尋常じゃない量の買い出しに来ていた。 (……暗い……。) 罰として先輩達からは大量のスナック菓子を、同級生達からは2リットルのジュースを数本――しかも全部炭酸飲料――を頼まれていた。これからパーティーでも始めるのかな。楽しそうだね。そろそろ学校閉まる時間だけど。 適当に選んだ商品が入ったカゴをよいしょ、とレジに置いた。……これどうやって持って帰ろうかな。雑に扱うと炭酸飲料が大変な事になるよね。 そんなことを考えながら、先輩から預かったお金(ちなみに部費)で支払う。 「ありがとうございましたー!」 コンビニ店員の営業スマイルに見送られ、私は店を出た。レジ袋が手に食い込んで痛いよちくしょう! 『はぁ……。誰か手伝いに来てくれないかなぁ。』 無理だな、薄情者ばっかりだもん、と自問自答……もとい文句を言いながら荷物を地面に下ろした。僅かな期待を込めて、制服のポケットから携帯を取り出しディスプレイを見る。するとあら不思議、着信ありの表示が。 『あ……ゆーりからだ。いつ電話来たんだろ。』 ありがとう心の友よ!!きっとゆーりなら私を見捨てないと信じてた……!! 私は口元が緩むのを感じながら電話をかけ直した。 薄暗くなったコンビニって、治安が悪いんだよ……って、誰かが言っていた気がする。 『あ、ゆーり?…………えっ!?』 ――――――――――――――― その頃、部室では。 「もしもし、奈央ー?あのさー、ポテチの他にもチョコとか……もしもし?奈央?聞いてるー?」 「どうした?侑李ちゃん。」 「名前で呼ばないで下さい一ノ瀬先輩。……奈央が電話に出ないんです。」 「うっそ、反抗期?侑……芦屋さんも奈央ちゃんも。」 「さぁ。一ノ瀬先輩が酷いこと頼むからじゃないですか。あと名前で呼ばないで下さい。」 「ひどっ!!芦屋さん、ひどっ!!僕にだけ風当たり強くないっ!?みんなだって重いジュース頼んでたじゃん!!僕らはあえて軽いスナック菓子を頼んだんだよっ!?」 「はぁ……。煩い。」 「まぁまぁ、侑李ちゃん。瑞貴も落ち着きやー。」 ――――――――――――――― その頃、コンビニでは。 「ねぇ君。中学生ー?ちっちゃいねー。」 「大丈夫?手伝ってあげよーか。」 『(ちっちゃいとは失礼な。)……いえ、結構です。』 「送ってってあげようか?」 (無視かいっ!!) 奈央は駐車場で不良3人に絡まれていた。 「ばっか、お前!!これ、あそこの高校の制服だよ。」 バシッと叩かれた男が、まじかよーと叫ぶ。悪かったなチビで。そんなに驚かないでよ傷つくから。ていうか…… 『ちょっ!……離して、下さいっ!!』 腕を掴まれた。ちくしょう左手が使えないじゃないか。しかも、間違って電話を切ってしまった。もしこの会話がゆーりに聞こえてたら助けに来てくれたかもしれないのに。 奈央が絶望で一瞬フリーズしたのを、抵抗をあきらめたのだと勘違いした不良達のしつこさはエスカレートする。 「送ってあげるからさー、そのかわり遊びに行こーよ。」 『矛盾してるし。……そんなことより、私まだ学校に用がっ!!』 必死に抵抗をするが、私が敵うはずもな……くなかった。腕を振り回したとき、誤って携帯が手を滑ってしまった。しかも運の悪いことに、リーダー的存在の人の顔面に当たってしまったのだ。グッジョブ!!私のスマホ!! 「てんめぇ……。女だからって調子乗りやがって……。」 しかし当然キレた不良。こめかみに浮く血管。徐々に顔が赤くなってきた。私の顔は青くなってきた。 これは……ちょっとどころか、完全にマズイかも。頭に血が上った彼は容赦無く腕を振り上げる。 「てめっ……!!」 『ゃ…………っ!』 (……殺られる。) 私は反射的にきつく目を閉じる。 死を、覚悟した。(いや、冗談じゃなく、本当に) (あ……れ?) しかし、いつまで経っても衝撃が来ない。恐る恐る目を開けると、目の前の不良達はいつの間にか別のものに注意を向けていて、私の腕も解放されていた。 彼らが気を取られているその隙に、私は荷物を抱えて跳びはねるように不良達から距離を取った。しかし何が起こったのか確かめようにも、彼らが邪魔で見えなかった。 「なんだよてめぇ。」 不良の一人が一歩踏み出す。てめぇ……てことは、誰かがいる?もしかして誰かが助けに来てくれた?私がそう考えていた瞬間、誰かに話しかけた不良が吹き飛んだ。一瞬の出来事に呆気に取られているうちに、殴ろうとしたもう一人の不良も吹き飛ぶ。 視界から二人も不良がいなくなって。救世主の姿が見えた。しかし、私の知る顔じゃない。やったのは……陵泉の制服を着た生徒? 「ちっ。……おいっ、帰るぞ!!起きろお前らっ。」 ギロリと睨み付けられて、命知らずの手下の朽ちた屍を見て、力の差を目の当たりにした賢いリーダーは勝てないと悟ったのか、先頭不能の二人を連れて足早に去って行った。一瞬の出来事過ぎて、私の稚拙な脳みそがついていかない。 取り残されたのは私と、長身の男子生徒一人。やや明るい茶髪にピアス、適度に着崩された制服にネクタイはない……ってことは先輩なのかな。恐らく私を傷つけるようなことはないだろうけど、さっきの不良達よりも、明らかに恐ろしいオーラを放っている。 そんな彼が、ついに私に目を向けた。身長差のお陰で生み出された上からの視線が、私の視線とぶつかる。これはヤバい。刺さった視線が痛すぎて出血しそう。しかも蛇に睨まれた蛙のように、彼の顔を凝視したままフリーズしてしまった。 ていうか、綺麗な顔だなぁ。女装とかしたら、結構イケると思う。……って何考えてるんだ、私。 「……何。」 そんなことを考えている間も、しっかりと彼を見つめていたわけで。明らかに不信感を含んだ視線で、不機嫌な声でそう言われてしまった。 『すっ、すすみません。』 咄嗟に謝り目を逸らす。……更に気まずくなった空気に堪えられず焦る奈央。彼の無言の圧力が余計に怖い。 (ヤバい、変な汗が、) しかし、彼のお陰で私が助かったのもまた事実。常識的に考えればお礼をしなければならない。数年間分の勇気を今ここで使い切って、私は口を開いた。……のだが。 『あの、ありが「奈ーー央ーーっ!!」……。』 異様な空気がコンビニの駐車場を包んでいるというのに、そんなことお構いなしに、とある自転車が彗星の如く猛スピードで邪魔してきた。 『え?え!?ゆーり、なんで……、』 自転車は私と男子生徒の間で止まると、彼の方には目もくれず、手際よくサッと荷物と私を抱え上げ、風の如く去って行った。 (わぉ、超展開。) 「奈央、大丈夫だった!?」 『うん、一応。……あ、お礼。言ってないや。』 一人駐車場に残された男子生徒。彼の笑みを見た者は、誰もいない。 (やべぇ、今のチャリ超速かった。すげぇ。) ――――――――――――――― 彼の笑み=爆笑 . [*前へ][次へ#] |