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素直で瑞々しい浮遊感
作:闇友菜
レビュー:雪芳


 ベリアートの姫であるスピカは地下宮の牢獄から連れ去られる。連れ出したのは、竜の血をひいた青眼という国家反逆者だった……。

 この作品を読んでみて、一番最初に感じたのは抽象的で瑞々しい「浮遊」でした。

 鬼束ちひろの曲「月光」と、ファイナルファンタジーXの曲「ザナルカンド」にてをイメージしながら書いたという本作。ハイファンタジーという企画テーマを意識し、魔法や召喚、竜といった幻想的な素材を随所に盛り込んでいます。
 その一方で、科学の発達、文明の発展も感じられるファンタジーとしては特殊な部類に入るだろう世界観となっていました。

 特殊と感じられる点は他にもあり、文章は一人称によって主人公との心の距離がとても近いものとなっています。ヒロインの不安定な気持ちがそのまま言葉になっています。そのため、世界観と同じく、少々の癖があるように感じました。随所の言い回しや場面転化も独特です。

 構成については、物語の背景が大きかったためか少し窮屈になっており、物語が進むにつれファンタジーによく慣れた人でないと理解しにくい内容となっていきます。
 正直に書くと、人を選ぶ作品かもしれないです。

 ですが作者の個性は、退廃した舞台に強い色彩を感じられる瑞々しさを、そして不思議な浮遊感を与えていたように思います。
 一癖も二癖もある世界観、人物、文章、構成の中に、物語を作ろうとする原始的な力が光っているように感じました。まるで抒情詩や神話に触れているような、素直さがあります。

 読むというより詠んでほしい、感じて欲しい。そんな作品です。

月の下で君を喚ぶ

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あきゅろす。
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