上質なハイファンタジー
レビュー雪芳
この文章は上手い、と感じる小説があります。感じる要因となるものは様々ですが、まず私が真っ先に思い浮かぶのは「空気とぶつかる瞬間」です。
人は視覚に頼りがちであるためか、視覚に頼りきった小説の数は多いです。そのために、本来はあって当然の「空気とぶつかる瞬間」を表現することに疎かになってしまいがちになります。
しかしこの作品は、その瞬間を描いています。生きているならば当たり前に感じる感覚を書けるということは実に素晴らしいことです。
主人公が扉をあけて空気にぶつかったとき、この作品を上手いと感じました。そしてなにより、安心して読めると。
その予測は当たって、安心感と余裕のある優美な文章によって、私は心地よい読後感を得ることができました。
この作品の魅力はそればかりではありません。
文章を支える作者の想像力も、力強い魅力に溢れていました。
異形としての運命を背負った主人公、鐘の音を鳴らすことを欠かさない育ての親、侮蔑の目で見つめる村のものたち、ただものでない貴族。
空を揺るがす子守唄、神々の纏う羽衣、光とともに注ぐ冷気、精霊への祈り。
美しいものも醜いものも優しいものも傲慢なものも、世界の一部としてしっかりと根付き、なにより息づいている。異世界としての十分すぎる魅力を持ち合わせている。
万人にオススメしたい、そう思わせてくれるファンタジーです。
鐘の音
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