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リップの味



--コンコンコン

均一なリズムで木製の玄関の扉を叩く音がした。

俺の家を三回ノックをするのは多分、いやきっと・・・

「おーい、優成いるかー?」

軽い声が扉の向こうから掛かる。
やっぱりなと思った。
この声の主は俺が想像していたやつであったらしい。

「今出ます。ちょっと待ってください」

薄い扉だから中から聞こえるだろうと大きな声で返事をすると外からの声は止んだ。

俺は薄手のパーカーを羽織りサンダルを引っ掛けドアノブを回した。

「山名さん、いらっしゃい。どうぞ?」

扉を開き、そこに立っていた男---山名 彰(ヤマナ アキラ)----を部屋の中に迎え入れた。



「・・・・・・で、今日はなんすか?まだ朝だしメイクしてなかったんですけど。505号室の人に見られたらどうすんすか?
俺まだ会ったことないんすよ?」

山名さんという男は俺が女装趣味であることを知っている人の一人だ。
そして503号室に住む俺の部屋の隣の502号室の住人でもある。

「だから、あいつに見られても問題ねぇって言ってんだろ?」

「知らねーっすよ。
俺会ったことねーもん」

「おい、敬語・・・じゃねーけど崩れてんぞ。何が“もん”だ。かわい子ぶってんじゃねーよ。
んで、年上にタメ語使ってんじゃねーよ」

「・・・さーせん」

俺が敬語になりきれてない敬語を使うのは初対面の時死ぬほど怒られたからだ。この人は私立中学校の教師なんてもんをやっていて、髪は肩くらいまであるしイケメンだしぱっと見温厚そうではあるが、元ヤンってやつだ。

上下関係にはとにかく厳しく俺が超絶可愛い女装をしたとしても、素顔がびっくりするくらい地味だったとしてもそんなもの関係ないと言わんばかりに敬語を強要する。

・・・まぁそういう人嫌いじゃないけど。

きっと学校でも生徒に好かれてるんじゃないかと俺は思っている。



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