■ 「なあ、着替えたいんやけど」 「どっか行けよ」 忍足と向日が睨んでくる。 理御は立ち上がったが、奏はまだ座っている。 ボーッとしているようにも見えるし、ただ無視しているようにも見える。 どこか、一点を見つめているようだった。 「・・・奏」 「・・・・・・・・・分かってるわ」 遅かったが返答が返ってきた。 一応話は耳に入っていたようだ。 奏は立ち上がると洗濯物を取り出して籠に入れた。 籠を持って扉に向かう。 「跡部には洗濯物干してくるって言っといて」 部室から少し離れた所に5本の竿があった。 そこでいつも洗濯物を干していた。 レギュラーだけの洗物だけでも随分な量がある。 「こんだけの数をあの女一人でできると思ってんのかしら。 ずっと自分たちの傍に居るってのに」 「私たちが来る前は洗濯物どうしていたんでしょう?まさか小鳥遊さんが一人で」 「そんなわけないわ。平部員にでも押し付けてたんでしょ」 奏と理御の2人は話をしながら手分けして干していた。 コートのようすが見えるが相変わらずレギュラーは練習をしていない。 ウィルが滝と試合をしているのが分かる。 審判は日吉だ。 「ウィル、頑張ってんじゃない」 「彼が一番日吉と萩之介のこと気に掛けてますよ。 それに私たちがこうしてマネージャーの仕事をしている間、彼だけですから。2人を助けてあげられるのは」 コートに再び目を移すと滝が点を決めたところだった。 滝は嬉しそうな顔をしているし、ウィルは悔し気に微笑んでいた。 日吉の顔もほころんでいた。 「少しでも、日吉の望む日常が戻ってきてるんでしょうか」 「そう思いたいけど・・・問題はレギュラー共よ。それとあの女」 「奏って本当に小鳥遊さんのこと嫌いですね。絶対に名前で呼ばないし」 小鳥遊の名前は出さず『あの女』で会話をしている奏を理御は苦笑した。 思えば彼女の口から『小鳥遊』なんていう単語が出てくるのは本当に稀。 [*前へ][次へ#] [戻る] |