05
「ごめん…困らせて…。」
「違う…違うんだよ…。嬉しいけど、嬉しいけど…、」
「ゆっくり考えてくれれば良い。駄目なら駄目でお互い夢に向かって頑張れば良いさ。応援してるし。」
「違う…なんでっ!」
長知は気が付いた。
自身と雅、二人の夢の違いに。
それは女装どうこうではなく、夢を夢だと自信を持って口に出来ない事が関係していた。
自分のお店を持ちたい、それは紛れもなく、ずっと叶えたかった目標、夢だったはずなのに…。
雅に夢を語られた時、自分の夢を隠すように口を閉ざしてしまった。
以前、二人が高校生だった頃、雅が最後に言っていた言葉。
『戦う力もないなら最初から攻撃なんてするな。』
あの頃の長知には覚悟が足りなかった。
今だって中途半端で、未だに甘えている。
本当の自分に気付いていながら本当の覚悟を決めかねている。
だから夢に恐れを抱いている。
「僕は…」
「うん…?」
「……。」
長知は何も言わずに立ち上がった。
今まで沢山迷ってきた、沢山頑張って最後には神様がご褒美をくれた、そう言い聞かせるように思う。
決心を今、この瞬間に出さないといけないような思いを長知は感じていた。
「僕の夢は絶対に叶える。」
「うん…。」
「でも、僕は僕の道を生きたい。」
「……。」
「だから、嬉しいけど…ごめんなさい。」
長知は溢れ出す涙を堪えて頭を下げた。
苦しくて、本当は無理やりにでも「一緒にお店を持とう」と引っ張ってもらいたい…なんて女々しく考え続けて…。
でも後戻りは出来ない。
自身の夢を、雅の真っ直ぐな夢と張り合えるものにしたかった。
誰に何を言われようと自信を持って本心を叫びたかった。
「まさか…振られるなんてなぁ…。」
「……。」
「いつもみたいに、しょうがないなぁって言われる想像しかしてなかったから…結構ショックだな…。女に振られるぐらいショックだわ…。」
「…ごめんね。」
「あー…なんか、俺もごめん…。」
本当に良い返事を貰える予想しか経てて居なかった雅は、心の中が空っぽになったような心境で地面を見つめた。
「だけど…若葉が夢に向かって真剣に頑張ってる人で良かった…。こんな風な夢って中には笑う人も居るじゃん?だからちょっと怖かったんだ。でも…若葉が同じ夢持ってるって知った時嬉しかった。」
「…うん。僕も、今決心がついた。とっくにお金は貯まってたのに甘えてた。背中を押してもらった気分だよ、梓君のお陰…。」
「あーあ、余計なことしちゃったかな…?店辞めんの?」
「……。」
長知はその質問には答えずに一人歩き出す。
店を辞める。
そう行動で示した長知の意図を、雅は察して後を着いて行った。
「いつか若葉に追い付く…。」
「それ、お店にきたばかりの時も言ってたね。」
「当たり前だろ?男はいつだって一番になりたいんだよ。」
いつの間にか雅は長知を追い抜いて、今度は長知が雅を追い抜くように早歩きをする。
二人の歩みはどんどん加速していき、最後には駆けっこをするように走り出した。
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