01
ピンクが理想の色だとすれば、私のピンクは何色だろう?
嘘に嘘を塗り重ねた私のピンクは真っ黒で、理想なんかと程遠い。
私のピンクは、私のピンクは…
「カマ野郎。帰れよ。」
「っ…!」
横山雅(よこやまみやび)の一声で、クラス全体で帰れコールが始まった。
ことの発端である梓川長知(あずさがわながとも)は、もうこれ以上は耐えられないと涙を堪え、逃げるように教室を出て行った。
梓川長知、彼は歴とした男である。
しかし男として生を受けた彼の心は異性のもので、それは世間には受け入れ難い事実であった。
それでも自分に嘘をつけない長知は、意を決してカミングアウトをしたのだった。
「雅君が好きなんだ…。」
「長知…冗談やめろよ。つーか罰ゲーム?誰メンバー。」
「僕本気だよ!本気なんだ…。僕…私、心は女の子で…雅君が好き。雅君、嘘吐きは嫌いだっていつも言ってたから…だから、例え雅君と付き合えなくても、気持ちだけは伝えたかった。いきなりごめんね?ビックリしたよね…。」
「……。」
長知は真剣に悩んだ結果行動に出た。
しかし思春期真っ盛りの雅が受け止めるには余りにも重かった。
今まで仲良くしてきた友人が、実は心が女で自分を好きだと言う。
雅にはそれがある意味恐怖で、どうして良いか分からなかった。
「僕ね、皆にも言おうと思うんだ…。」
「…なんで?」
「それは、僕が僕じゃないから…私が私で居たいから。」
そう言った長知の目はしっかりとした強い意志を持っていた。
しかし現実はそう甘くない。
受け止め難い事実を突きつけただけでは自己満足に過ぎず、雅たった一人でさえ現実を受け止めきれていないのに、周りが簡単に受け入れてくれるはずがなかった。
長知はそんなことにも気付かずにカミングアウトをし、あっという間に友人を無くしてしまった。
「俺のこと好きだって。」
「うっわ気持ち悪。」
「近寄んなよ。」
心が女だと主張した長知と、そんな長知の存在を気持ち悪いと罵倒する友人達。
雅は何の迷いもなく友人側につき、率先して長知を虐げ始めた。
クラス、学校全体からのイジメに長知は高校を中退することを決意した。
書類を提出し終えた所で雅と出くわす。
一目見ただけでトキメキを覚える自身に、長知は何で彼を好きになったのだろうとやり場のない悲しみに歯を食いしばった。
「逃げんのか。」
「……。」
「あん時の威勢はどうした。結局お前は何がしたかったわけ?戦う力もないなら最初から攻撃なんてするな。無駄だって分かれ。」
「…無駄ね。そうだね……。雅君、気持ち悪がせてごめん。雅君…。」
それが長知と雅が交わした最後の言葉だった。
長知は最後に言いたかったことがある。
『雅君…大好きだよ。』
この一言が言いたくて言えなかった。
怖くて言えなくなった好きだという言葉に、長知は今まで他人には決して見せなかった涙を最後に零した。
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