それが恋だから
犯罪ですかB
「真面目に仕事しろよ」
…お咎めの言葉でしたか。
それでも、俺はもう天にも昇るような心地で、気をつけして大きな声で答える。
「はいっ、すみませんでした!」
「………」
でも彼はもう何も言わず、首を傾げながら店を出て行ってしまった。
「はー…嘘みたい」
…一瞬だったけど、夢みたいな時間だった。
――太郎さん…。
俺が薦め続けた一番好きな作家のマイナーな本を、注文までしてくれた。
できたら、俺の入りの日に本が届いて欲しい。
そしたら入荷の電話は、絶対に俺がするんだ。
…電話越しで直に彼の声をもう一度聞きたいし、あわよくば録音を……。
俺は彼の触ったボールペンをエプロンのポケットにしまい、暗記した名前とケー番を自分の携帯のアドレス帳に追加した。
――もしかして、業務上横領と個人情報保護法違反?
…いや、大丈夫だ。
ボールペンは私物を返しておくし、まかり間違っても仕事以外で彼に連絡することはない。
その後3日間、醤油が口の内側で口内炎になってしまった傷に染みて、その度に彼のことを思い返していた。
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