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君だけでいい
野良猫


「おいコラ陽介、人の部屋には勝手に入るなって言ってるだろ!」


すっかりお決まりになってしまっている文句を一応言いつつ、自室のドアを開けると。


…寝てやがる。


俺のシングルベッドで頭から布団を被り、窮屈そうに丸まっている大きな塊があった。


「起きろっつの!」


きっちり折り込まれた掛け布団を、思い切り引き剥がした。


「…なんだよ」


眠りを中断された陽介は不満げに、ゆっくりとこちらを見上げた。


「うわ!」


瞼と頬が見事に腫れ上がって、左目の上と唇から顎まで流れた血が、乾いて固まっている。


――密かに俺自慢の、母親譲りの整ったネコ科美形が、見るも無残な姿に…!


しかし、一般の方々が見たら怯え震え上がるだろうその形相も滲み出る不機嫌オーラも、長年の付き合いの俺にとってみれば全く効果は無いことだし。

ここは容赦なく言ってきかせねば。


「なんだじゃない。枕に血がつくだろ。起きろ!」

「冷てぇ…」


陽介は緩慢な動作で身体を起こして頭をがしがしと掻いた。

面倒だからと大して手入れされていないのにサラツヤな少し長めの黒髪が、跳ねまくってボサボサだ。


なんだか勿体なくて、手櫛ですいて仕上げに軽く撫で付けてみた。


「よし、大体元通り」

「………」

「ほらベッドから降りろ、消毒するから」

「あー…」


棚から救急箱を取り出して振り向いても、まだ眠いのか視力が悪いせいなのか、腫らした目を更に細めてこちらをじーっと睨んでいた。





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