君だけでいい
◇
「陽介が入学初日だっていうのに、もう喧嘩したみたいなのよー!」
やっぱり、またか…。
「買ったばっかりの制服はぼろっぼろ、顔中血まみれでっ…マサキちゃん、怒ってやって。どうせ私の言うことなんて聞かないんだからっ!」
でも、陽介が流血させられるなんて珍しい。
デビュー当時(?)こそ青アザ・大怪我日常茶飯事だったけど、ここ最近は返り血は浴びても自分は目立った傷なんかつける事なかったのに。
――さすがは有名ヤンキー高校…強い奴がいるんだなぁ。
などとぼーっと考えている俺にお構いなしで、その後も弾丸のように文句を捲し立てると、百合子さんは勢い良く顔を上げて、家の奥をキッ!と睨み付けた。
自分が長期不在の間に何かあった時の為にと、母が百合子さんに預けたはずの合鍵が何故か陽介の手に渡り、人がいようがいまいがお構い無しでうちに上がり込んだりしている。
まぁ、鍵がなくても昔からうちに入り浸りではあるが。
「…わかった、あとで説教しとく」
はぁ…とこっそりため息をついてその肩を引き剥がすと
「ありがとう!マサキちゃん、よろしくお願いね。陽介を見捨てないでやってね?」
お祈りポーズで小首を傾げ、もう何度も聞いているような気がする台詞を残して、百合子さんは打って変わった軽い足取りで、ドアの外に消えていった。
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