君だけでいい
◇
「さっきの子はどうしたんですか?」
「あー。放ってきたから知らない」
「彼女、いるくせに…」
「………」
なぜか止まらない。
逆にこっちが殴られてもしょうがないような、そんな反抗的な態度。
「おまえに、俺を責める権利はまだないよ?」
――責めてる?俺が?
弾かれたように顔を上げると、いかにも面白がってるような瞳と目が合う。
「嫉妬してるでしょ」
「そっ!んな…こと…」
俺の混乱した思考に、余裕の表情で答えをくれる。
嫉妬…なのかな?
このやり場のない怒りと苛立ちは。
「俺のこと気になってるでしょ」
「う…はい」
「俺のこと好きでしょ」
ゆっくりと頬に伸びて来た手に、顔を上向かされる。
傷痕だらけだけど、リストでも軽々と弾きこなせそうな、男らしい節の太い長い指。
「それはまだ…よくわかりません」
「ずっりーの」
笑いを含んだ吐息が唇にかかって…軽い口づけが降りてきた。
――完敗だった。
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