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君だけでいい


覚悟を決め、せめて腕だけでも守ろうと後ろ手に両手を回して立ちつくすと、フルーティーフローラルの香水の匂いに、ふわっと包まれた。

かと思ったら、後ろからいきなり伸びてきた両腕に、がっちりホールドされてズルズルと荷物みたいに一気に後方へ引き摺られる。


「うわ!?」

「はい、そこまでー」


頭のすぐ上から、よく通る甘めの低音――ずっと忘れられなかった、匂いと声。

突然現れた闖入者に、虚を突かれた悪者達の勢いが止まる。


「に、仁志…!」


というより、恐怖に青ざめている。
俺のと違う抜群な知名度。


「ちょっと下がっててね」


ここ数日間、俺の頭の中の大部分を支配していた主は、くるっと俺を回転させて身体の位置を入れかえた。

すらっと背筋の伸びた、細く見えるけどしっかりした背中の後ろに、隠すように庇われる。


「仁志 拓海…?」

「そうでーす。でもフルネーム呼び捨ていくない」


仁志は前方を見据えたままふざけた調子で答えると


「よっしゃ、ちゃっちゃとやりますかー」


助走をつけて、男達の中に飛び込んでいった。





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